-花と緑の-
□最終話 『花とヌヌ』 その二 魔神復活編
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シーンU:破壊の権化(1/6)
舞い上がる土砂はまるで活火山から立ち上る噴煙のよう。事実、それに近いほどの威力があの閉じた地下空間で炸裂したのだろう。まともな生き物では生存など絶望的に思えた。その様子を外から見ていられるあたり、どうやらあたしたちは渦中からからくも逃れおおせたようだが。
「おいいぃぃぃぃ!? なんだあれえぇぇぇぇ!?」
土煙の中から翼を広げてばたばた這い出して、もんざえモンは誰にともなく吐き捨てるように言う。まるで隕石でも落ちたかのようなそれ。蘇った逃走本能によっていち早く危機を察した熊に抱えられ、地下遺跡から脱出するその間際、あたしの目に見えたのは頭から地面に突っ込む生首魔神の姿だった。文字通り手も足も出ないあんな状態、他に攻撃手段なんてあるはずもない。そう、あれは正真正銘何の変哲もない、単なる頭突きでしかなかった。
なかったのに、と。今の今まで地下遺跡だったその、ただの巨大なクレーターを眼下に見渡して息を飲む。技名に突っ込む余裕すらもなかった。
あたしたちは、決して目覚めさせてはならないものを呼び起こしてしまったのだ。決して敵に回してはならないものと対峙してしまったのだ。そう、思えてならなかった。
「あれがブラストモンか。なんという出鱈目な……!」
「やれやれ、さすがに締まり過ぎネ。さて、どうしたものか」
熊の頭の上で魔術師が言えば、下では脚にぶら下がってツワーモンが続く。間で熊がぎりぎりと歯列を軋ませた。
「どうもこうも、とりあえず一回退いて考えんぞ。無策じゃ死ねる。てゆーかお前ら自分で飛べよ」
「す、すまない。咄嗟だったもので」
「ミーも凧を用意する暇がなくてネ。しかし熊君はさすがの反応だ。よくあのタイミングで避けたものネ」
たいしたものだとばかりに頷く。熊の足の先でぶらぶらしていては様にもならないが。
「いや、なんか逃げろって言われた気がして」
あたしを抱えたまま空いた片手でこりこりと頭を掻く。まさに本能の為せる業か。
「てゆーかツワーモン。バンチョーだっけ? おたくの師匠は一体どんだけあっちこっちで怨み買ってんの?」
「ふむ……そう言えばロイヤルナイツやオリンポス十二神とも殴り合ってきたことがあったネ。いわく、“漢と漢が出会った。喧嘩の理由はそれで十分”だそうだが」
「「不十分っ!」」
期せずして熊とハモる。ロイヤルなにがしとかが誰かは知んないけれども、その理屈が理屈にもなっていないことだけは断言できる。どこのバトル漫画の住人だ。知的生命体ならまずは話し合えというのだ。
気のせいかなんだか耳が痛いが、それはともかくとして再びクレーターを見下ろす。まだ追撃してくる様子はない。粉塵にあちらも敵を見失っているのか、あるいは機を窺っているのか。
なんて考えていると、ふと間抜け極まりない想像が頭を過ぎる。魔術師が声を上げたのはちょうどそんな時だった。立ち込める爆煙の中心へ、あたしと同じ場所へ視線を落として。
「あー、思ったのだが……」
「うん、あたしも思ったことがある」
「奇遇だな。オイラもだぜ」
「実はミーもだ」
「うん……」
と頷いて皆一様にうんともすんとも言わない爆心をただ見据える。
「あれ……ひょっとして死んだ?」
とはあまりにもあんまりな幕切れだったけれども、一向に音沙汰がないのだから想像してしまうくらいは仕様がない。というか、冗談抜きであの爆発だ。あれだけ至近距離で受けてまったくの無事とは思えない。
あの威力を目の当たりにした後では、馬鹿馬鹿しくともいっそこのまま決着してしまえとも思えてしまう。あれはもはや、戦うなんて次元の話ではない。
「とにかく一回降りるか。いつまでもこんな――」
はあ、と息を吐き、そう熊が言ったとほぼ同時だった。土煙の中に輝く何かが見えたのは。
最初に気付いたのは脚にぶら下がるツワーモン。次いであたしだった。