-花と緑の-
□最終話 『花とヌヌ』 その二 魔神復活編
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シーンY:激闘の果て(1/5)
「な……なんだとぉ!?」
信じがたい光景に、思わず迎撃の手まで止め、ワルもんざえモンが声を上げる。
「エクセレンっ……!」
砕け散った骨こん棒。四散するデジソウル。その中で、頬を歪めて吹き飛ぶブラストモン。
有言実行。勇者の責務を見事果たしてみせた少女に思わずツワーモンが呟けば、
「ああ……君こそ勇者だ!」
ふらつく彼女の隣で魔法陣を構築し続けるウィザーモンが力強く言う。
「さて」
ツワーモンは迫り来る魔神を、狙いどおりにその場所へと飛ばされてくる魔神を一瞥し、辺り一帯の地面を見渡す。
よくよく見るならそこかしこにバトンほどの大きさの筒が突き立てられ、その先端から伸びる細い糸がツワーモンの手へと集まっている。それが何かというなら、爆弾と導火線以外の何物でもないだろう。
「仕込みは上々、後は仕上げを……ごろうじるがいいネ!」
そう言って不敵に笑い、ツワーモンが指を鳴らせば導火線へ一斉に火が走る。
油でも仕込まれていたのだろう。火は瞬く間に爆弾へと迫り、ツワーモンは揺れる大地から跳躍する。
空にいた魔神たちは気付いてもいないようだった。地中から響く振動、その正体にも彼らの企みにも。
「ぬふぅぅぁぁん!? ぶったああぁぁぁ!? マミィィィにもぶたれたことないのにぃぃぃん!」
なんて様子の魔神は地上にいようが気にも留めなかっただろうけれど。
軽やかに跳んだツワーモンはそんな魔神の上にとんと乗り、再び跳躍の姿勢を取りながら嘲るように言う。
「そいつはソーリィネ。ああ、ついでにもずく酢も嘘ネ」
とだけ言い捨てて、すぐさま魔神の上から跳び退く。
気を逸らす、必要はもはやない気もしたが、念には念をであった。
「ぶるるぁぁ!? きっさむぅああぁぁぁぁ! うぅぅぅそついたらエぇンマもっ……ぶっむぅぅぅんっ!?」
跳ぶと同時にツワーモンが投じていたのは粘着性を持った蜘蛛の巣状のワイヤートラップ。一度容易く破られてしまったことを忘れたわけではない。だが、数秒の足止め程度にはなっていたことも、しっかりと覚えている。
残る手持ちのトラップをありったけ投入したそれは、魔神の顔もわからなくなるほどに絡まり、絡まり、絡まりつくす。
でかい繭のようになった魔神がそのまま為す術もなく地面へ落ち――かけたその間際、炸裂した爆弾が大地に亀裂を走らせる。
先の地中の振動の主、ここら一帯の地下をでたらめに掘り進めていたニセドリモゲモンも、既に己の仕事を終えてその場を離れ、穴だらけの地盤は爆発によって激しく土砂を巻き上げながら沈下する。
降りるべき地面を失い、魔神は地下へと落ちてゆく。舞い上がった土砂が封をするようにその上から降り注ぐ。
あとは――
「っ!? くそっ……!」
当然、その一部始終を空から見ていたワルもんざえモンが、黙っているわけもない。鎖の射程よりも深くへ落ちたか、地上から引きずられ肩ががくりと下がるも、飛翔へ力を裂いて空中で踏み止まる。すぐさまぴんと張り詰めた鎖を手繰り、魔神を手元へ戻そうとする。だからこそ、
「よそ見、してんなあっ!!」
魔神を地上の仲間たちに託し、ただ真っ直ぐに彼は、ヌヌはワルもんざえモンの元へと向かったのだ。
すべてはこの一対一のお膳立て。
ヌヌは燃え盛る翼で風を切り、煮えたぎる拳を振りかぶる。彼我の距離はとうに拳打の射程内。
地上に気を取られたワルもんざえモンは一瞬反応が遅れる。空いた左の腕で防御体勢を取ろうとするも、それは悪手。この助走距離、この準備時間からの一撃は、片腕ではとても防ぎ切れない。
戦局を左右するほどの致命打は、必至。
誰もがそう思った、次の瞬間。
ふっ、と。その炎は、陽炎のように消え失せる。
があん、と、重たい鉄塊がぶつかり合うような低い音。しかし、誰もが思い描いていたものに比べるなら、あまりにささやかなそれ。
ヌヌの拳は、炎を纏わぬもんざえモンの拳は、水晶に覆われたワルもんざえモンの左腕を叩き、僅かばかりの衝撃を与え、その反動に弾かれる。ワルもんざえモンは、微動だにしていなかった。