-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その二 魔神復活編
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シーンW:限界の先へ(1/10)

 けたたましい唸りを上げてドリルが岩盤を砕き、穿ち、やがて地上へと至る道を開く。勢いよく弾け飛ぶ土砂はまるで地雷でも爆ぜたよう。この上なく目立ちまくっているが致し方ない。
 ツワーモンが先行してからぴったり10秒、元より「だったらいいな」の楽観でしかなかったが、やはり地下への攻撃はそうそう止む気配もない。これ以上は危険と、あたしたちは地上へ出ることを余儀なくされる。
 半ば弾丸のように飛び出す男爵に続き、次々に地上へと踊り出る。息吐く暇はない。すぐに周囲へ視線と意識を巡らせる。魔術師のデコイやツワーモンの目眩ましがどれだけ機能したかなどわかるはずもないが、想定すべきは常に最悪。それが最善。
 だからこそ――

「上だ!」

 男爵の言葉にも即座に反応することができたのだ。
 後続の邪魔をしないようにか、あえて必要以上に勢いをつけて飛び出したことが幸いしたのだろう。頭上から自分たちを狙う敵の姿をいち早く捉え、叫びながら男爵は宙で身をよじる。鼻先のドリルはなおも激しく回転する。視線の先には上空から左腕を振るうワルもんざえモンの姿があった。黒い雨が放たれたのは、あたしたちがその姿を認める間際のこと。

「“バルルーナゲイル”!」

 目前まで迫っていたそれは飛来する虫の群れにも見えた。間一髪で魔術師の風の魔術が周囲を旋回する盾となってこれを阻む。
 思った以上にあっさりと見付かったものだが、一先ず初撃だけはどうにか凌げたか。
 黒い雨が止むを待って風の魔術も四散する。魔術師はちらりと横合いを一瞥し、何かに気付いたように小さく息を飲む。反射的に視線を追えば辺りには立ち上る蒸気が二つ三つ、不自然にえぐれた地面の穴も見て取れた。囮に放った土の魔術と黒い雨の攻撃跡だろう。辺りが薄く霞掛かって見えるのは散らされた煙幕の残滓か。ないよりマシ、と言えるかさえも微妙なところだった。

「オウ、生きてまた会えたネ」

 不意に蒸気の柱を切り裂いて、姿を現したのはツワーモン。視線は上空のワルもんざえモンたちを捉えたまま、あたしたちの元へと駆け寄る。はあ、と重々しく息を吐くその身体は、所々に火傷のような痕が見て取れた。

「思ったより随分早かったけどね」
「ソーリー、努力はしたのだがネ」

 肩をすくめてやれやれと首を振る。そんなツワーモンを責めようなどと思うものはいなかった。いるはずもない。元より無茶は百も承知だったのだから。

「だが困ったネ。遮蔽物に隠れた微弱なデジソウルでも探知できるのか、何らかの手段でこちらの位置を把握しているとしか思えんネ」
「あるいは私の魔術かもしれない。幻影も魔術そのものを看破されたように見えた」

 今までの戦いを思えば最初から、とは考えにくい。幻影の目眩ましは確かに機能していたはずだ。つまりは生首魔神と合体した影響という訳か。そんなベクトルのパラメータが上昇する合体には到底さっぱりちっとも見えないが、何にせよ、今はあれこれ推測している暇もないか。
 男爵がドリルを激しく回転させながら叫んだ。

「各々方、構えられよ! 来るぞ!」

 ずずん、と地を揺らし、ワルもんざえモンと生首ハンマーが続けざまに重々しく降り立つ。生首は降りるというより落ちるだが、そこはとても些細な問題なのでまあいい。ワルもんざえモンが皮肉げに小首を傾げ、あたしたちを指差して格好よく言い放つ。

「さあ、鬼ごっこは仕舞いだ! いい加減に――」
「んなぬぅ!? 鬼ごっこだとぅぅん!? ぬうん、じゃんけんもせずに逃げおってぇからにぃぃぃぃい!」
「え!? い、いやあの、たとえ――」
「最初はぐうぅぅぅぅぅっざます! りぴぃぃーっとぅ・あふた・みぃぃぃ! ぅおわかりぃぃ!?」

 勿論あんなの連れてちゃどうやっても格好などつかないが、そこは自業自得である。
 しかしあれまさかあたしたちが地下にいる間もやってたのかな。心中お察しするぞ、モトハルや。
 
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