-花と緑の-

□第一話 『花と緑の』
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シーンU:異界の迷子(1/3)

 
「おお、お目覚めですかね娘さん」
「あ……はい。え?」

 目が覚めるとそこはふかふかと気持ちいい真っ白なベッドの上だった。手探りで見付けた眼鏡をすちゃっと掛けて、辺りを見渡せばどうやら木造のロッジのような場所。何やらいい匂いと優しそうな声に思わず普通に受け答えしてしまったが、振り返り見たその姿に思わずぎょっとする。

「丁度今リリリン風味噌スープができたところでしてな。どうですかね?」
「……イタダキマス」

 あたしの知る常識の範囲内でもっとも近しいのはそう、なまはげだろうか。多少伝言ゲームに失敗しながら南国へと渡ったジャパニーズなまはげ。ダボダボとした民族衣装のような服を纏い、裾から覗く指は不自然なほどの暗褐色。鬼瓦に似た仮面を被っているように見える顔はしかし、よくよく見ればどうやら自前。人ではありえない青い肌に、人ではありえない鋭い牙の生えた口と、人ではありえない炎のような赤い髪。先程のナメクジが可愛く思えるほどの、あからさまな化け物であった。
 コチーンと凍る表情。混乱した頭は逆に恐怖を忘れたよう。半ば呆けながら、差し出された漆塗りの椀を思わず受け取って、リリリン風味噌スープを一口。あらおいし。じゃなくて。リリリン風味噌スープって何それ。……でもなくて。

「あの」
「どうじゃね?」
「あ、美味しいです」
「うむ、それはよかった。おお、そうそう。おでこはどうですかな?」
「え? ええと……あ、大丈夫です」

 リリリン風味噌スープの椀を床に置き、おでこに手をやれば絆創膏のようなもの。少しだけたんこぶができていたが、痛みは無かった。

「軽い打ち身ですな。気を失ったのは……ただびっくりし過ぎただけでしょう。すみませんな、驚かせてしまいまして」
「はあ……あ、いえ」
「昔からやんちゃでしてな。――そら、そんなところにおらんでこっちへ来てちゃんと謝らんか」
 
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