-花と緑の-

□第一話 『花と緑の』
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シーンT:緑との遭遇(1/3)

 
 世の中は退屈だ。
 有り触れた出来事ばかりを繰り返す平々凡々とした日常。彩りのない世界はまるでモノクローム。いくら待ち望んで、どれだけ待ち焦がれても、このアンニュイをぶち壊してくれる劇的なイベントなんて起こりはしない。人生は、余りにも普通だった。

 幼い頃から物語が好きだった。
 どんなに素敵なことだろう。ウサギを追い掛けた先で不思議の国へと迷い込めたなら。古本屋で見付けた一冊の本から物語の世界への扉が開いたなら。魔法世界からフクロウの手紙が出生の秘密を告げに来てくれたなら、それはどんなに素晴らしいことだろう。

 そんな、夢物語からは程遠い十余年を生きて、夢見る乙女の心のお花畑は今にも萎びて枯れ果ててしまいそう。誰でもいい。何でもいい。多少血生臭くても構いやしないから、誰かあたしを今すぐこの日常から連れ出してっ。なんて、中学二年のある夏の日、あたしはそんなことばかりを考えて溜息を吐いていた。中二病は、否定しない。

 でも、そんなあたしも頭のどこかでは理解している。誰もが知っているのだ。大多数の患者はきっと軽症。異世界なんてどこにもなければ、自分に出生の秘密なんてないし、ある日突然宿命の勇者に選ばれることもないと。有り得ないことなのだと、理解しているのだ。自分が平均的なただの思春期だと知っているのだ。
 だから――そう、あるはずがないのだ。それを目の当たりにした時のリアクションなんて用意しているはずがないし、受け入れ態勢なんて整っているはずがない。心の準備なんて、できているはずもないのだ。

 例えばの話。
 突然目の前が真っ白になって気付けば見たこともない場所にいた、などという場合、平均的な14歳の少女はどのような反応をするものであろうか。
 例えばの話。
 その見たことも無いような場所で、緑色の巨大なナメクジが自分を見下ろしていた場合、平均的な女子中学生はどのような反応をするものであろうか。
 例えばの話。
 それがもし例えばの話でなかったとしたら、あたしこと雨宮花の取るべき反応はどのようなものが正解であろうか。
 
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