-花と緑の-

□第一話 『花と緑の』
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シーンY:黎明の出立(1/2)

 
「おはよう、ハナ! 鋭気は養えたか?」
「ふ、ふふふ、おかげさまで」

 旅立ちは翌日の朝。開き直ってお腹いっぱい食べてぐっすり眠れば、腹が立つほど調子はよかった。

「いやぁ、それにしてもよっぽど腹減ってたんだな。まさか食べ切るとは思わなかったよ。完全体の2、3体分はあったと思うけど」

 そう言って笑うヌメの頬らしき辺りには一筋の汗が伝う。まるで得体の知れないものでも見るような失礼極まりない目であった。
 やだわもう、大袈裟ね。それがどれくらいの量かは知らないしよく覚えてもいないけれど、こんな華奢な女の子に食べ切れる量なんてたかが知れてるじゃない。ほんの数十皿よ。三桁はいってなかったわ。多分。うふふ。

「まあ何はともあれ、そろそろ出発するとしようか!」
「もう腹括ったわ。何でも来やがれよ」
「おお、頼もしいな! さすがは救世主だ!」

 自棄とも言うがな! けっ、と吐き捨てて、無造作に持ち上げたこん棒を肩に担ぐ。昨日の戦利品である。どう見ても勇者の装備ではないが、素手よりはマシと持って行くことにした。ゴブくらいなら上手くやれば倒せることも分かったわけだし。

「てゆーか、やっぱパートナーってあんたなわけ?」

 見るからに行く気満々なところを悪いのだが、できるならもう少し戦力的に頼もしくて生理的にあれじゃないのがいいんだけど。

「おいおーい、オイラじゃ不満だってのかー?」

 またまたご冗談をー、みたいな軽いノリでおどけてみせるヌメに、あたしはただ「うん」と頷く。そんなあたしにヌメはわざとらしくずっこけて、ぺろりと舌を出す。もう、ヌメちゃんったら。入念に叩いて刻んですり潰して塩振って深めに埋めちゃうぞ! 死ね!

「まあ、長様は腰があれだし他はちびばっかだしで、実際問題オイラしかいないんだけどな!」

 嫌な一択問題ですこと。断っても断っても同じ選択肢をループするRPGみたいな理不尽さだ。いや、無駄な選択肢を提示されなかっただけまだ親切設計だったろうか。どうもありがとうございましたあ!

「もういいし。行くよヌメ。あんたで我慢したげる」
「あれ、まだ全然そんな感じ? 割と温度差ねえ?」

 思春期の気候は不安定なんだよ。はあーあとわざとらしく溜息を吐いてすたすたと歩き出す。
 
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