-花と緑の-

□第一話 『花と緑の』
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シーンW:勇者の戦い(1/5)

 
「ぅえ!? え、何ぃ!?」

 突然の爆音に心臓が口から飛び出しかける。とまではいかないにせよ、今朝のたくあんくらいは逆流しそうになりつつ息を呑む。慌てて窓に駆け寄るバロモンさんに遅れること少し、そろりとその背中越しに外を見る。

「何ということだ……!」
「長様、あいつらまさか!?」
「え!? 何!? 何なの!?」

 窓の外に見えたのは細く立つ黒煙。逃げ惑う村の住人らしき小さな生き物たち。そして、黒煙の足元にゆらりと揺れる、三つの影だった。

「ちょ、ちょっと! 何なのよ!?」

 とうとう来やがったか! みたいな顔してないで説明しろよこの野郎! てゆーか危機には瀕してないって今さっき言わなかった!?
 と、あたしがつかみ掛からんばかりの勢いで詰め寄れば、バロモンさんはぎりりと歯牙を鳴らし、物思いに耽るように一度だけ空を仰いで静かに語り出す。結構暢気だね!

「奴らの名は“グレゴリオ幻想兵団”……! かつて世界を席巻した強欲の魔王が臣下たち、その生き残りたちによって結成された盗賊団! が、内部抗争によって分裂したことで新たに再結成された盗賊団! が、とある勇敢なデジモンたちによって壊滅させられた後、からくも逃げ延びたその残党たちなのです!」

 なのですって言われても。

「つまり……ええと、どういうこと?」
「何言ってんだよハナ! つまり、お前の出番ってことだ!」

 今こそ世界を救うのだとばかり。ぐっと拳を握りしめ、吠えるようにヌメが言う。そこ拳だったんだ。
 てゆーか、え? これあたしの出番? 何が!? なんかメインのイベントことごとく終わってるみたいに聞こえたけど!?

「奴らは兵団の先兵――ゴブリモンだ!」

 戸惑うあたしにも構わず、ヌメは村を我が物顔で闊歩する三匹の小鬼を指差して声を上げる。指あるんだ。

「一匹ならただの雑魚だが……一、二、何てこった! 三匹もいやがる! まあまあ手強いぞ!」
「まあまあなんだ……」
「ゴブリモンだからな!」

 ゴブリモン……成る程、ゴブリンか。こん棒を持ったいかにも頭の悪そうな小鬼。確かに見た目はRPGでよく見る雑魚オブ雑魚ことゴブリンそのもの。世界の危機には程遠いな。オープニングとしては妥当な難易度という気もするけれど、でもこれあたしのパラメータまだ限りなくただの村人その一なんだけど!?

「ようし! 行くんだハナ! お前の力を見せてやれ!」
「は、はあ!? 無茶言うな! てゆーかあんたさっきパートナーやるっつったでしょ! 行くならあんたじゃないの!?」
「……え?」
「え、じゃなくて!」

 ずびしっと指を突き付けてやればヌメはしばし思案するように眉をひそめる。眉どっから生えたんだろう。そうして、はっとなる。

「ホントだ! どうしよう!?」

 ははーん。分かった、成る程ね。さてはバカだなこいつ!? バーカバーカ!
 何て、言ってる間にまた爆音が一つ。黒煙と悲鳴が上がる。言ってる場合じゃないよこれ!?

「ちょ、ちょっと! ホントにどうすんのよあれ!? 行くなら早く行ってよ!」
「無茶言うなよ! ヌメモンだよオイラ!?」

 いや、ヌメの立ち位置は存じ上げませんけれども。同じ無茶言ったのどっちだよ!
 やいのやいのと言い争う。見付かると怖いからそこそこ声は抑え目に。曲がり成りにも世界を救うと宣ったあたしとヌメがそんなことをしていると、突如外から聞き覚えのある声が轟いた。
 
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