□ハッピーバレンタイン'19
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【ヒナタのバレンタイン】
「はい、チョコ」
朝の通学路でサプライズも何もなくしれっと渡されたチョコレートを、二人は半ば呆れるように受け取った。
「今年も色気のないバレンタインだね」
「毎年こうなんだ」
「余計なお世話よ。いらないの?」
葵日向からの愛想のない友チョコは、マリーにとっては今年が初めてだったが、幼なじみである住良木藍子にとっては毎年恒例のことだった。
「いるよ、いるいる。あ、僕からもあるからね」
「あたしも用意したよー」
そう言ってそれぞれ二つずつのチョコレートを差し出す。女子三人での、確かに色気がないと言えば、まあないだろう。
藍子は受け取ったチョコをまじまじと見て、そして例年とは違っていたことに気付く。
「って、これ手作り?」
「そ、最近ちょっと凝っててね」
「パンプモンのおかげだねー」
「ぱんぷもん?」
「なんでもないわ。気にしないで」
お菓子作りはデジタルワールドにいる間、騎士団の仲間になったパンプモンから暇つぶしに学んだもの。思いの外に楽しく、こちらへ帰ってきた後もそのまま彼女の趣味となっていた。
「ところでヒナ、僕のチョコ、なんだかマリーちゃんのより小さくない?」
「どうせいっぱい貰うでしょ。無理して食べられても困るし」
「学校で? うわ〜、藍子さん、やっぱモテるんだ」
「はは、女の子にね……」
「まあ、女子校だし」
そんな顔でそんなキャラならモテてもおかしくはないだろうに。むしろモテたいのではなかろうか、とヒナタは常々思っていた。
「そういえばマリー、随分大荷物だけど、それどうしたの?」
ふと、ヒナタはマリーの抱えている鞄へ目をやる。いつものスクールバッグとは別にもう一つ、今朝は見慣れないバッグを持っていた。
「チョコだよ。ばらまくの。ぱーっと」
「バレンタインってそんな感じだっけ」
「そんな感じだよー。あ、でも二人のは特別だよ」
「それを言うなら僕も特別さ。というか二人くらいしかあげる人いないし」
「はいはい、私だって特別よ」
今年は手作りな上に数も増えた。おかげで手間はかかるようになったけれど、こういうのも悪くないと、ヒナタは小さく笑う。
例年は二つだけ、けど今年は四つ。あげる人が三人も増えたから。そう、三人増えて、チョコは二つ?
「あ」
と、そうしてヒナタはようやく気付くのである。忘れられた、五人目のことを。
「お父さんの分忘れてた」
-終-