□第十二夜 碧落のプラネット
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12-1 英雄の物語(1/4)

 
「すまない」

 遠く荒れ狂う轟音と爆風がやがて終息の兆しを見せ始めた頃、そんな弱々しい声は私の耳元から。ぐ、と小さく呻き、彼はうなだれる。その手が私の肩から滑り落ちるように離れた時、ようやく自分が彼に、ダスクモンに抱えられていたことを理解する。
 半ば呆然としたまま、辺りを見渡す。氷に覆われた大地、凍てついた空。見覚えのないはずが、どこか見覚えのある白銀の氷原。時間にして僅か半日ほどの間に二度にも亘って姿を変えたそこは、枯れた森と、そう呼ばれていた場所。

「セフィロトモンの結界を越えるには時間も余力も足りなかった……!」

 無念だとばかりに、言ったその声にはノイズが掛かる。

「ダ、ダスクモン!?」

 振り返ればその姿が徐々に黒い粒子へと変わる。それが何を意味するのか、私は知っていた。けれど、

「心配するな。ただのエイリアスだ」

 肩を叩いて言う。穏やかなその声は、慌てる私を気遣ってだろう。ダスクモンは私の後ろへ目をやって、

「お前と違ってな」

 と、そう続ける。口元は微かに笑んでいるようにも見えた。その言葉と視線に振り向く。私とダスクモンからは少し離れた場所に、ふん、と鼻を鳴らす小生意気な姿を見付けて、私は思わず息を吐く。

「随分乱暴なエスコートじゃねえか」

 私と違って衝撃に投げ出されたのか、頭をさすりながらインプモンは立ち上がる。ふ、と今度ははっきりと笑い、ダスクモンは肩をすくめた。

「生きているなら御の字だ。悪いが、これ以上は手を貸してやれそうにない」

 言いつつ、声は掠れ、その体は粒子となって散っていく。

「お前たち三人で、どうにか脱出を……必ず、機は――!」

 最後の言葉は、冷たい風に紛れて消える。
 息を飲む。心臓が凍るような錯覚。ただただ虚空を見詰める。そんな私の背中を、少しだけ強くインプモンが叩いた。

「落ち着け。言ってたろ、エイリアスだって。本体が死んだとは限らねえ」

 希望的観測、だとは思った。けれど口には出さない。私は甘く唇を噛んで、無言で頷く。そんな私にインプモンは小さく息を吐き、僅か視線を逸らしてそれよりと続ける。

「三人、とか言ってやがったな」
「え?」

 逸らした、のではなかった。インプモンが見ていたのは私の隣。ううんと唸り、身を起こした“三人目”に思わず、目を丸くする。

「あなたは……」
 
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