□5周年リクエスト小説C
2ページ/3ページ

 見慣れた町並みも、ほんの数日の大冒険の後ではどこか懐かしく思えた。
 微動だにするなと言っておいたヌヌもはじめて見る景色にまあまあちょろちょろする。ただでさえでかい謎マスコットを抱えて街中をうろつく不思議ちゃんムーブをぶちかましているというに、それがうにうに動き出した日にはいったいどんな目で見られることか。まあもうすでにすれ違う人々と多少のディスタンスを感じるのだけれども。

「まずはー……うん、腹ごしらえかな」
「安定の燃費だな。金あんのか?」
「今時のJCはキャッシュレスよ」
「じぇい……きゃっしゅれす?」
「いーからいーから」

 首を傾げるヌヌを抱えて街に繰り出す。向こうでは無一文だったがこちらではスマホがある。支払いは任せろってなもんよ。あ、先月買い食いし過ぎて残高ヤバいんだった。あの金塊持ってくればよかったな……。

「なんで一瞬で元気なくなったんだ?」
「はは、なんでも。あ、ご飯安いのでもいい?」
「金ないなら無理しなくていいぞ。つーか家に帰んなくていいのか?」
「もちろん帰るよ。でも少し距離あるから、帰り道にちょっとだけね」

 ふうん、とヌヌは興味深そうににゅっと上体を伸ばして辺りを見渡し、その目は車道で留まる。
 行き交う自動車はヌヌにはさぞ珍しいことだろう、なんて、思っていたのだが、

「さっきからデジビートルみたいのが走ってるけど、あれに乗れるのか?」
「デジビートル? って、車のこと? え、向こうにもあんな乗り物あるの?」
「おう、あるぜ。ど田舎のジャングルでなけりゃあな」
「へえ……そうなんだ」

 なんか勝手に中世くらいの文明レベルと思っていたが、いや、よく考えたらロボットっぽいデジモンもちょこちょこいたな。自動車くらいあってもおかしくはないか。どうせ迷い込むならデジビートルとやらがあるところにしてほしかった。こちとらずっと歩きぞ。脚太くなっちゃうわ。

「どっかの小世界じゃデジビートルのレースとかもあるらしいぜ。一回見てみてぇんだよなぁ」
「ふぇー、ほーらんあー」
「こっちでもそういうのって……いや待って、何食ってんの? あれ、いつの間に!?」
「ふぁん、もぐもぐ」

 過酷な旅に思いを馳せながら、今さっき買ったたこ焼きを頬張る。
 恐ろしく早い買い食い。あたしでなきゃ見逃しちゃうね。
 しかしちっちゃいことでいちいち騒がしいやつである。コマカイコトグチルモンですか。

「えい」
「あむん! あ、おいし」

 うるさいお口にたこ焼きを放り込む。ふーふーしてないたこ焼きはちょっとした凶器だが、まあヌヌだから大丈夫だろう。

「え、なにこれうっま。ちょ、もいっこもいっこ!」
「えー、仕方ないなー」

 鼻息荒く催促するヌヌに、あたしもちょっと気分がよくなる。
 こうしてあたしたちは街を練り歩いては食べ歩いていく。
 クレープ、唐揚げ串、トルコアイス、ケバブサンド、なんかお洒落ななんとかティー、等々。食べ合わせとかは特に気にしない二人は多国籍満漢全席を堪能する。まさに食の大航海時代である。目指せ世界の果てを。ヨーソロー!

「あ、残高なくなった」

 だが間もなく沈没する。世界の荒波は非情である。

「ザンダカ? え、もしかしてお金なくなったのか?」
「へへ」
「安いのでいいとかってくだりはなんだったんだよ。……ひょっとしてデジビートル乗るのもザンダカってのいるんじゃないのか?」
「ふふ、そこに気付くとはね。さ、どうしよっか?」

 わざとらしく肩をすくめて首を傾げる。
 どうだ、お前も食いまくった手前そんなに文句は言えまい。

「なんの自信が満々なんだよ……」
「てゆーか金塊って出せないの? もう消化しちゃった?」
「うーん、ほとんど進化のために取り込んだっぽいしな。カスぐらいは無理やり出せるか……?」
「いやそれもうただのウンコじゃん」

 お金がなくてウンコ漁るとか、さすがにそこまで落ちたくはない。
 と、眉をひそめたところでふと、ヌヌの言葉が引っ掛かる。あたしたちは顔を見合わせる。

「進化?」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ