つよすぎてニューゲーム

□つよすぎてニューゲーム
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【これまでのあらすじ】

@俺、選ばれし子供として召喚される。
A俺、パートナーのアグモンと旅に出る。
B俺、アグモンとラスボス直前まで辿り着く。
C俺、ラスボス倒す前に別の世界に召喚される。<Now!


第二話『勇者、リスタート』


「なんと……よもやそのような事情がおありとは」

 いろいろかい摘まんだ俺の簡潔な説明に、俺の置かれた状況のこの上ないややこしさに、村長であるジジモンは頬に汗を垂らしながら頭を抱える。
 抱えたいのはこっちもだが、悪気も落ち度もない相手を責めるのはさすがに気が引けた。

「なるほど、困ったことになっちまったな……」

 ジジモンの隣で腕を組み、窓から空を見上げて赤いデジモンが溜息を吐く。
 Vの字頭にヘッドフォン。顔立ちは恐竜のようだが、体つきは人間の子供のよう。そのデザインからして察するに、

「俺はシャウトモン。お前のパートナーとして旅に出る……つもりだったんだが」

 と言って赤いデジモン・シャウトモンは頭をかく。
 やはりそうかと、困惑気味なシャウトモンに笑いかけ、俺は手を差し出す。

「俺はダン。よろしくな」

 少し遠慮がちにシャウトモンも手を出し、俺たちは握手を交わす。
 ふて腐れてどうにかなるわけでもなし。俺には既にアグモンというパートナーもいるが、だからといってシャウトモンに辛く当たる理由にもならない。

「とにかく、一度クロスローダーの伝承を調べ直して……」
「いや、すぐに発とう」

 ジジモンが気の毒になるくらい意気消沈しながらも、言いかけた言葉をしかし、俺は遮って言う。
 面食らったようにジジモンはシャウトモンと顔を見合わせ、もう一度俺を見る。目をぱちくりとさせて、怪訝な顔をする。

「発つ、とは?」
「勿論この世界を救う旅にだ」

 と言ってやれば二人は目を見開く。
 シャウトモンが躊躇いがちに問う。

「いいのか? お前のいた世界は今……」
「よくないさ。けど、だからってこの世界を見捨てていいわけじゃない。それに――」

 思い返すのは先程までいた別のデジタルワールドで聞いた選ばれし子供たちの話。過去にも現れた英雄たちは世界を救い、そうして、

「役目を果たせば選ばれし子供は元の世界へ帰る、って、そう聞いた。この世界でもそうなんじゃないのか?」
「そ、それは……」

 今いるこの世界を救う。それが前いた世界へ戻るための、俺が思い付く唯一の方法だった。
 戻れる保障なんてどこにもないが、ここで手をこまねいているよりはずっといい。立ち止まっている暇なんてないんだ。クライマックス真っ只中のメンタル舐めんなよ。

「お前はどうだ、シャウトモン。俺じゃ不服か?」
「んなこたねえよ。けどよぅ……」

 と、シャウトモンが眉をひそめながら言い、かけたその時だった。不意に外から銃声のような音が聞こえたのは。
 はっと、俺とシャウトモンは顔を見合わせ、すぐに外へと飛び出す。その間にも爆発音が続く。村人だろうデジモンたちが逃げ惑い、見ればそこかしこで火の手が上がっている。
 辺りを見回す。村を見下ろす丘の上に、だぼだぼとしたゴムスーツにガスマスクの、いかにもな敵の姿を認め、俺はシャウトモンへ目をやる。

「トループモン。敵だ」

 返答は至極シンプル。だが、それだけ聞ければ十分だった。

「ダ、ダン殿! これを!」

 頷く俺と、応えて頷き返すシャウトモン。そんな俺にジジモンが慌てて小さな端末を投げて寄越す。
 マイクにも似た白い端末は、俺が手にしたその瞬間に紅く色付く。

「任せろ」

 端末を受け取ると、俺はそれだけ言って駆け出す。
 説明されるまでもない。これがこの世界のデジヴァイス――いや、“クロスローダー”だろう。

「クロスローダーに秘められた力は“結束”! デジモンたちを束ね導く力と聞き及んでおりま――」
「進化だ、シャウトモン!」
「おう! え?」
「え?」

 友のため、愛するものたちのため。その想いを踏みにじる悪辣非道への義憤が猛る炎の如く燃え上がる。
 雄々しき力、デジソウルの奔流が結晶となって俺の胸に輝く。曇天を払う太陽に似た“勇気の紋章”から、溢れ出る力がクロスローダーを通してシャウトモンへと流れ込む。
 戸惑うのはわかるが、時間はあまりないのでさくさくいこう。

「シャウトモン! 超進化ぁぁぁ!」

 莫大なデータの波がシャウトモンの電脳核を急速に進化させ、その全身を構成するワイヤーフレームとテクスチャが瞬く間に書き換えられる。

「オメガ……シャウトモン!」

 長く逞しい肢体。その全身は金色に染まり、迸る力は先程までの比ではない。
 完全体、いや、ともすれば究極体まで進化を果たしたか。

 最序盤のザコには気の毒だが……こちとら“2周目”なもんでな。

「蹴散らせ! オメガシャウトモン!」
「おおおぉぉ! オメガ・ザ・フュージョン!」

 オメガシャウトモンの全身から沸き立つオーラが一瞬、白い騎士の姿を形作り、輝きとともに弾けて爆ぜる。村全域を包み込んだ閃光はしかし、村人や建物には何の影響も及ぼさず、トループモンだけを焼き焦がす。
 襲撃に来たトループモンは見えただけで10はいたか。そのすべてを瞬時に、同時に、跡形もなく消し飛ばしてみせたのだ。
 光が収まった後に残ったのは地面に焼き付いた影だけだった。その様を見ながら当のシャウトモンは、信じられぬといった面持ちでただ呆然としていた。

 そう……こうして俺の、俺たちの、つよくてニューゲームな2周目は、幕を開けたのであった――


【続く】
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