-花と緑の-
□最終話 『花とヌヌ』 その三 エピローグ
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シーンU:別れの刻へ(4/10)
食事を終えた後は皆の様子を見に行くことにした。
最初に向かったのは村の診療所。暢気にお昼ご飯を食べておいてあれだが、男爵の容態はやはり気掛かりだった。
気絶するほど殴り合った後にドーピングで痛みをごまかして戦い続けたのだ。あたしたちの中で間違いなく一番の重傷だったはずだ。最悪も、有り得たろう。
全身に包帯を巻かれ、よくわからない光の球を身体に乗せられ、横たわる姿は痛々しいものだった。男爵と、声を掛けても反応はなく、倒れてからまだ一度も意識を取り戻してはいないらしい。お医者さんの話によれば容態も安定し、数日で目を覚ますだろうということだったが、具体的にいつになるのか、ワイズモンの見付けた方法であたしが帰るまでに間に合うかは、誰にもわからなかった。
「これでお別れなんてヤだからね、男爵」
物言わぬドリルをそっと撫で、あたしは診療所を後にした。
広場ではハグルモンたちが村の子供たちと遊んでいた。
同じに見えても性格は違うらしく、追いかけっこをする子や歌と踊りに混じる子、なんか浮かんで回ってる子、それを眺めている子と、様々だった。
あたしが声を掛けると八車八様の反応が返る。
今まで切羽詰まっててあれだったが、一回見捨てかけたりもしちゃったけれど、よくよく見ると中々可愛い子たちだった。
彼らが遊び回っている広場の中央では宴の準備が進められていた。これが自分たちのためのものだと思うと背中がむず痒くなる。祭壇のようなところには「こちらが神様になります」とばかりに黄色い熊が奉られていたが、流すことにした。
村を散策していると見知った顔とも再会した。
詳しいことは言わずに別れたが、盗賊に捕まっていた預言者の村のデジモンたち、アジトで料理を振る舞ってくれた燃えるコックの米良さんや、金塊をくれたケンタウルスの健太くん、クッキーを焼いてくれたアルラウネのウネ子ちゃんもあたしたちを心配して様子見に、と、お礼を言いにわざわざ来てくれたらしい。
なぜここが、というならお告げがあったからだそうだが、相変わらずしれっとすごいなあの預言。回りくどいけど。
ここには来ていない土田さんやなまはげさんのところにも、時間があれば後で挨拶に行ってみるとしよう。幸い足なら祭壇にある。
「さて、と」
一通り村を回り終え、手持ち無沙汰になって伸びをする。あたしのお散歩になんでかついてきていたハグルモン――ハグ太郎と名付けよう――を撫でながら空を見る。じきに夕方、ご飯ももうすぐだろう。
「はぐはぐ」
「ん、なぁに? 遊んでほしいの?」
「はぐはぐ!」
「あはは、しょーがないなー」
なんとなく解るようになってきた気がしないでもないハグ太郎の言葉に笑って返す。きゃりきゃりと歯車を鳴らすハグ太郎と、きゅるきゅるとお腹を鳴らしながら再び広場へ戻ることにした。