-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その三 エピローグ
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シーンU:別れの刻へ(8/10)

 翌日は昼を少し過ぎた頃に目を覚ました。食べて飲んで歌って踊って、途中から記憶はないが気付けば朝だった。
 宴会の残り物を朝ごはんにいただき、文字通り泥のように眠るヌヌを叩き起こし、あたしたちはこれからのことを話し合った。

 ワルもんざえモンたちを倒した勇者の噂は、近隣の村々へどんどん広まっているそうだ。おかげで勇者、つまりはこのあたしを一目見ようとデジモンたちが続々と村へやってきているらしく、宴はまだまだ続くという。であれば主役がいなくなるわけにはいかないだろうから、あたしが村に留まることも致し方なしであり、折角持ってきてくれたご馳走をいただかないのも失礼というものだから、今夜も食べまくったってオーケーどころか人としてそうすべきなのである。

「じゃあしばらく村にいる方向で」
「異議なし」

 という感じで秒で方針を決定し、あたしたちはじゅるりとよだれを飲む。

 そんなこんなで、宴はそれから更に三日続くこととなる。

 そうして、四日目。
 さすがにもういいかと思い始めた頃、見計らったようなタイミングで吉報は飛び込んでくる。それも、二つ。

 一つはウィザーモンからの連絡だった。
 デジヴァイスを介した交信魔術により、明日にもゲートを開けそうだと報せが入った。
 村人や集まってくれたデジモンたちに挨拶をし、名残惜しいが村を発つ準備を進めている最中、吉報はもう一つ届いた。
 報せを受けてあたしは、お土産の宴飯弁当を詰め込んだリュックも置いてすぐに診療所へ向かった。

「男爵っ!?」

 診療所へ飛び込むなり思わず大きな声を上げてしまう。あ、と口を押さえてお医者さんに頭を下げる。
 そんなあたしに、目を覚ました男爵はぐっと親指を立ててみせた。

「大丈夫、なの?」
「なあに、これしき……」

 答えた声は弱々しい。けれど、意識ははっきりとしているようだった。
 お医者さんからも「もう大丈夫でしょう」と言われ、あたしは胸を撫で下ろす。

「すまぬが、何か飲み物を、一杯……いや、二杯いただけるか……」

 男爵は震える手で指を一本、二本と立てて言う。すぐに用意してもらったのはクサリカケメロンの生搾りジュース。病人に飲ませるようなものなのかという気もしたが、お医者さん的にもオーケーだというので男爵の枕元に片方のグラスを置いて、

「はい、でも少しずつね? 一気に二杯も……」
「いや、一杯は勇者殿に……」
「え?」

 そう言って男爵は片方のグラスを指で押し、あたしが手に持ったままのグラスへ寄せて、

「かん、ぱい……」

 と、精一杯の笑顔で言う。

「発たれると、聞いて……宴の、約束を……」
「……うん、乾杯」

 ちん、とグラスの縁と縁とを合わせて小さく鳴らし、あたしたちは戦場で交わした約束を果たすのだった。
 
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