-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その三 エピローグ
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シーンU:別れの刻へ(7/10)

 ヌヌに案内されてやってきたのは村外れの遺跡のような場所だった。所々が崩れた石階段に腰掛け、手にした本の上の小人と何やら話していたウィザーモンにおまたーと声を掛ける。

「ハナ君、随分早かったね。食事は……」

 気付いたウィザーモンは立ち上がり、山盛りのお料理が乗った大皿を抱えるあたしと、山盛りのお料理を口に詰め込んだヌヌを見て、言いかけた言葉を途切れさせる。

「わりぃな、途中なんだ」
「そのようだね。まあいいさ」

 なんて事もなげに言うのは師匠のほう。絶句する弟子には構わず、あたしたちを見ながらふむと唸り、

「コードクラウンの話は、彼から聞いているね?」
「ん?」
「コードクラウン?」

 思ってもなかった問いに記憶を掘り返す。聞いた覚えはぼんやりあった。確か、

「男爵のトンネルでたまたま見付けたやつ?」
「ああ、奴らの目的(キリッ)ってあれな」
「そこについては忘れてもらっていいのだが……まあ、それだよ」

 ヌヌの余計な一言にウィザーモンは顔を逸らしながら言う。やめてさしあげろ。

「結論から言うなら、コードクラウンを使ってゲートを開こうと思っている」
「え? そんなことできるの?」
「ああ、コードクラウンには外界との出入り、ゲートの開閉を制御する力がある。リアルワールドへのゲートを開くことも、恐らく可能だろう」
「恐らくかよ」
「生憎本物にお目にかかれたことがなかったものでね。詳しくはこれから調べてみるが、それなりには期待してもらっていいと思うよ」

 なるほど。まだなんとも言えない状態ではあるようだが、糸口すら欠片も見えなかったこれまでより格段に状況は好転したようだ。ワイズモン……賢者の名は伊達ではないということか。いや、弟子をディスったわけではないけれども。

「私たちはこれからすぐにでも向かおうと思う。可能であったとしても実際にゲートを開くまで数日はかかるだろう。君たちはゆっくり療養していてくれ」
「そういうウィザーモンはもう大丈夫なの?」

 と問い返せばすかさず師匠が言う。

「君たちに比べれば何もしていないに等しいからね。問題ないよ」
「命懸けで戦ったつもりですが!?」

 なんて抗議は至極真っ当だった。

「あはは」
「あははて。笑ってやるなよ」
「ごめんごめん。でもわかってるよ」

 あたしはぽんと、ウィザーモンの肩を叩く。

「それじゃ、ちょっと任せるね」
「ハナ君……ああ、任せてくれ!」

 力強く頷くと、ウィザーモンは呪文を唱えてマントを翻し、その身を夜の空へと躍らせる。

「いい友達ができたようじゃないか」
「ええ、おかげさまで」

 飛び立つ間際、そんな師弟のやり取りが聞こえた。
 勇者の戦いを支えてくれた頼もしい仲間、ウィザーモンに後を託し、あたしは……なにはともあれ一旦ひとまずとりあえずは、ご飯の続きを食べることにした。
 
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