□ハッピーバレンタイン'19
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【灯士郎のバレンタイン】

『届いた?』

 メッセージアプリから送られてきたそんな質問に、百鬼灯士郎は手元の小包とその差出人を見ながらうむと頷き、包装を開いて中身を確認する。

『今届いた。わざわざすまない』
『ううん。こっちこそごめんね、急に』
『いやー、なんかせっかくだし?』

 という二人の返答に、事情はおおよそ察しがついた。つまりはマリーの急な思い付きだったのだろう。包みの中には更に包みが二つ。まだ開けていないが、ラッピングはバレンタインのチョコ以外の何物でもない。
 露崎真理愛と葵日向。かつて苦楽をともにした仲間たちからの贈り物は、素直に嬉しいものだった。

『いや、感謝する』
『かたっ! もっと気楽でいいやつだよー』
『灯士郎君らしいわね』

 なんてやり取りをしてアプリを閉じる。ふと顔を上げると、目の前では友人がなぜか神妙な顔をして立っていた。

「どうかしたか?」

 と問い掛ける。荷物が届いた時、ちょうど遊びに来ていた二人の友人の一人、およそ灯士郎とは接点がなさそうな金髪の少年・虎丸涼は灯士郎の肩をぼんと叩き、

「やるな、朴念仁」
「む? 何がだ?」
「とぼけやがって、連絡先まできっちりゲットしてんじゃねえか」

 と、悪戯っぽく笑って茶化す。

「で、どっちだ? ヤンキーちゃんか? マネちゃんか?」
「む、送り主か? いや、どちらでもないが」
「おおーい、マジかよ。リンー! えらいことになってんぞ!」

 なんて呼ばれてやってきたもう一人の友人、灯士郎以上に長身、筋肉質な坊主頭の少年は名を牛尾竜胆という。竜胆ははしゃぐ涼に少々呆れつつ、灯士郎の手にしている小包を見ておおよその状況を察する。

「よかったな、トシ。クラスメートか?」
「いや、以前少し……病院で知り合ってな。快気祝い、のようなものだろう」

 デジタルワールドの話は一部を除いて勿論秘密にしている。向こうにいた2ヶ月は表向きは急病で入院していたことになっている。となると、二人のこともそれ以上は説明のしようがなかった。

「なんだ、ようやくお前に彼女ができんのかと思ったのに」
「すまないな、そういう間柄ではない」
「そうか、勘ぐって悪かったな」

 などと見た目どおりに真面目なことを言う竜胆。対して涼は唇を尖らせてからかうように言う。端から見ればなんともアンバランスな友人関係だった。

「んで、だったらあの二人のほうは? どうなんだよ?」
「二人?」

 というのは先程名前を上げた二人のことだろうけれど、どうと言われても灯士郎にはいまいちピンときていないようだった。
 百鬼剣道場の門下生である大西鷹の妹・真魚が彼の言う「ヤンキーちゃん」、「マネちゃん」は高校剣道部のマネージャーであろう。
 なぜ今この二人が? と言いたげな顔をする灯士郎に、二人の友人は顔を見合わせて、ただ大きな溜息を漏らすばかり。

「お前ってやつは……」
「む?」

 百鬼灯士郎。彼がバレンタインチョコに込められた想いを理解できるようになるのは、まだもう少し先の話であった。


-終-
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