□5周年リクエスト小説@
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◆U(2/3)

「いよっし、じゃ決まりね! えっと……あ、名前聞いてなかった。あたし露崎真理愛! マリーちゃん、って呼んでくれていーよ」

 なんて言われて少年たちは一瞬顔を見合わせ、何事もなかったというような顔をする。

「仙波歩。まあ、好きに呼んでくれ」
「百鬼、灯士郎だ。よろしく頼む」
「オッケ、アユムに灯士郎ね! あたしはマリー! よろしく!」

 ぐっと、顔の前で力強く親指をおっ立て、念を押すように今さっき言ったことをもう一度言う。
 眼鏡の少年、ことアユムは眉間を指でぐっと押さえ、深々と溜息を吐いて問う。

「なぜそうも愛称で呼ばせたがる」
「え〜? だってぇ、なんか“真理愛”って大袈裟じゃない?」
「は、なら苗字で呼んでやる。よろしくな、つ・ゆ・さ・き君」
「ぶー、いじわるー」

 などとわいわい言い合う二人を、長髪の少年、灯士郎は腕組みをしながらどこか遠い目で見る。そんな彼の顔を不意にひょこっと覗き込み、少女、マリーは悪戯っぽく笑いかける。

「灯士郎は呼んでくれるよね、マリーちゃんって」
「ぅ……ぬ、努力する」
「うーん、そんな力むやつでもないんだけど。ま、いいや」

 ふふ、と微笑んで、マリーは砂浜をさくさくと跳ねる。

「そだ、歳は? あたしね、14歳。中2!」

 問われてアユムは眼鏡をくいと上げ、灯士郎は小さく息を吐く。「元気な子だな」と、二人して同じ感想を浮かべる。ただ、この訳のわからない状況下にあっては少し、ほんの少しくらいは心強いような気がしないでもなかった。

「15。君の一つ上だ」
「同じく。学年はもう一つ上だが」
「はうあ!? 年上だった! あ、タメ口きいちゃった」
「はあ……別に構わん。好きに呼べと言ったろう。見ての通り体育会系でもないものでな」

 アユムが言えば見た目がちがちの体育会系な灯士郎もまた、さして気にする風でもなく頷いてみせる。

「あ、そう? じゃ遠慮なくー」

 というけろっとした返しは若干予想外ではあったけれど。
 そうこうしながら浜辺を進んでいるとふと、アユムが「ああ」と声を上げる。

「そういえば露崎君、スマホは持っているか?」
「ういー、マリーちゃんは買ったばっかで壊れたスマホを持ってまーす。あ、そっか、助け呼んだらいいんだ! って……あれ?」

 アユムの言葉にマリーはバッグを探り、ふと、指先の感触に眉をひそめる。バッグの中のそれを取り出し、そして、ますます眉間のシワを深くする。手に取ったそれは、自分のスマートフォンなどではなかった。

「やはりか。我々もだ」
「ほえ?」
「俺たちも同じものを持っている」

 アユムに続いて灯士郎が言い、ポケットから卵形をした玩具のような端末を取り出してみせる。アユムもまた同じものを手に、肩で息を吐く。二人の言葉通りそれは、マリーのバッグに入っていたものと同じ形のデヴァイスだった。
 マリーは青と水色、アユムは濃淡の緑、灯士郎は黒と灰色。配色こそ違えど、三人が手に持つのはどう見ても同じものだった。

「で、こいつの代わりにスマホが見当たらない、と」

 親指と人差し指でデヴァイスをつまみ、中央の液晶画面を見ながらアユムは言う。マリーはもう一度、食い入るようにデヴァイスを覗き込み、

「どゆこと?」

 なんて問う。アユムは深々と溜息を吐く。

「私にわかるはずがないだろう」
「あぁ、うん。そっか。そりゃま、そだよね」

 うんうんと、腕を組んでマリーは素直に頷く。もう一度、デヴァイスをまじまじと眺め、液晶の下部にあるいくつかのボタンをこちこちと弄ってから、ぷうと頬を膨らませる。

 
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