□5周年リクエスト小説@
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◆[(2/2)

 そうこうしながら砂浜をひたすらに進み、巨大クワガタのような化け物に遭遇することもないままやがて昼を過ぎた頃、ようやく景色が代わり映えをする。砂の海岸が途切れて姿を見せたのは、ごつごつとした岩場であった。
 海から突き出た岩を足場にちょっとしたアスレチックのような地形を進めば、誂えたような釣りスポットも何箇所か見付かった。海といっても海水ではなかったが、目を凝らせば魚影も見えた。さすがになんという魚か、食べられるのかどうかまではわからなかったが、ここらには釣り人などいないのだろう、随分と警戒心も薄いようで、ともすれば手づかみでも捕まえられそうに思えた。

「あ、ねえ見た今の? でっかい魚! ピル……ピクルス! あれ?」
「ピラルクと言いたいのか」
「そうそれ! そんなの!」
「生憎と私は気付かなかったが、百鬼はどうだ?」
「ああ、確かにいるようだ。ナマズや鮭のような魚も見えたが……」
「こんなところにか? つくづく出鱈目な生態だな」

 海水魚も淡水魚もお構いなし。こうなると本当に自分たちの知る魚かも怪しいものだった。果たして食べていいものか疑問だったが、もはやそれを言い出すと餓死するしかなくなってしまう気もした。
 アユムは岩山を見上げ、目の前の磯を見渡す。山まではもう半分といったところか。だが起伏が激しい上に波を被って滑りやすいこの悪路。山に着く頃には日が暮れはじめてしまうだろう。そこまで考えて、アユムは小さく唸って灯士郎を見る。

「百鬼、一足先に山の向こう側を確認してきてもらえるか。君一人ならすぐだろう」
「ああ、わかった。任せてくれ」

 言うが早いか灯士郎はレーベモンへと姿を変え、人間離れした跳躍力で岩場を飛び交い、山へと向かう。残されたマリーは首を傾げてアユムを見る。

「あたしたちは?」
「こっちだ。とりあえず捕まえてみるとしよう」

 アユムが磯を指差して答えれば、心なしマリーの目がきらきらと輝く。そしてお腹がきゅうと鳴る。

「あ……てへ」

 と舌を出せばアユムは溜息を吐くが、こればかりはマリーに呆れてのことではなかった。

「さすがに限界だな。山を越えた程度で人里に辿り着けるとも思えん。本格的にサバイバルを考えるべきだろう」
「助けもきそうにないもんね」
「ああ、来られるとも思えん」
「だね。そんじゃあ……えっと、どーするの?」

 磯を見ながらマリーが問う。岩に囲まれた浅瀬に入り込んだ魚もちらほらと見えたが、それでも手づかみはまだまだ難しいだろう。

「ふむ、そこらの木の枝で釣竿でも作ってみるか、素潜りか……木の中のケーブルが届けば感電させるという手もあるか」
「わお、過激。てゆーかカガミ怪人は?」
「メルキューレモンだ。そうだな、まだ何ができるか把握しきれてはいないが、試してはみるか」

 デヴァイスを取り出してアユムが言えば、マリーは岩の上をひょいと跳んで磯を見て回る。どこかいい場所はないかと海を覗き込み、そうして、ふと大きな魚影に気付く。
 いや、魚ではないようだった。一抱えほどもある影はうにうにと動いて絶えず形を変えていた。
 なんだろう、とマリーは身を乗り出す。

「どうした、何かいたのか?」
「あー、うん。なんかね……」

 海を指差しながら振り返り、その、瞬間だった。ざざんと飛沫を立てて影がその正体を現したのは。

「露崎っ!?」
「へ?」

 先にその姿を目の当たりにしたアユムが叫びを上げる。マリーは一瞬遅れて振り向いて、けれど視界に認めた途端に景色が一変する。
 それが何だというなら、触手だった。真っ白な触手がマリーを捕らえ、一瞬のうちに海へと引きずり込む。人の身のままであったアユムが動き出せたのはマリーが海中へ消えてしまったその後のこと。

 迂闊だったと、腹立たしげに舌を打ち、アユムはメルキューレモンへと姿を変える。
 鋼鉄の具足で岩を叩き、マリーを追うべく岩場を駆ける。が、それと同時に更なる障害が目前に現れる。
 海中より飛び出したのは、両前足に鋏を持つ巨大な甲殻生物だった。アユムの知識の中でもっとも近しいのは“アノマロカリス”だろうか。サイズ以外は、だが。昨日のクワガタと遜色ないその巨体でメルキューレモンの行く手を遮るように立ち、耳障りな唸り声を上げる。

 どう見ても先の触手の主ではない。生物種からしてまるで別物。そのはずが、巨大アノマロカリスは明らかに後を追わせまいとしている。
 生態の異なる生物同士が連携していると、知性と明確な目的を持って行動しているとでもいうのか。

 アユムは、いや、メルキューレモンは再度舌打ちをし、鏡の盾を構えて巨大アノマロカリスと対峙する。マリーの姿はいまだ、海中へと消えたままであった。

 
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