□5周年リクエスト小説@
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◆[(1/2)
三人は当初の予定通り山を目指し、ジャングルを迂回するように海岸を進んでいた。本当は一刻も早く先へ進みたいところだが、密林を突っ切ってはいつまたあんな化け物に出くわすかわからない。まあ、密林にしかいない保証など欠片もないので気休め程度という気もおおいにするのだが。
ついでに道中で食糧になりえそうなものを探し、足を遅らせない程度に辺りも見て回っていたが、こちらも正直微妙なところだった。食べられそうなものもないことはない。野草やキノコ、果実がそこらにあった。ふんだんにあった、のだけれども。
それは菜の花やシイタケ、リンゴ、なんてものでは勿論なかった。およそ日本の八百屋やスーパーでは見掛けないものばかり。灯士郎の言った通り、食用かの判断はどうにもつきかねた。ただ――
「う〜ん、なんかイヌサフランに似てる。仲間だったら毒あるかも?」
眉をひそめる男二人の横で、マリーは球根に長い葉の生えた植物を指差して言う。
ただ一つ、灯士郎やアユムにとって嬉しい誤算もあった。
「こっちはオニオンウィードっぽい気もするけど、食べらんないかなぁ」
マリーはまた別の場所でよく似た植物を指差して言う。そんな物言いには灯士郎もアユムも驚いて目を丸くする。
「判るのか?」
「むう、ホントにあたしの知ってるやつだったら〜、だけど」
「そうか……いや、だが感心した」
「え? えへへ、そう?」
「ああ、たいしたものだ」
「へへ〜。うち花屋でね、昔から好きなの」
マリーが言えばアユムは少し眉をひそめ、野草を一瞥する。
「こんな野草までか? 花屋では扱いそうもないが」
「えへへ。多分パパの遺伝。こういうの好きなの。あたし、小さい頃は絵本代わりに植物図鑑ばっかり見てたんだって」
少し照れたように頬を掻くと、マリーはもう一度、ジャングルに生えた野草やらに視線を戻す。今度は僅かに困った風に、
「ただね、なんか季節とか地域とかごちゃまぜっていうか。ここ何月で地球のどの辺なの? って感じ」
「成る程……まあ、もはや地球かどうかも怪しいがな」
「うう〜ん、確かに。あんまし役に立たないかー」
「ふ、気落ちするな。正直少し見直したぞ」
思えば初めて聞いた気がするアユムからのそんな素直な褒め言葉に、マリーはどこかむず痒そうにはにかむ。
「うへへ、褒められた〜」
灯士郎はそんな二人の横で、今の今まで見損なっていたのか、というツッコミをそっと飲み込むことにした。
「ふむ、しかしそれだけ絞り込めるなら、後は可食性テストでもしてみるか」
「かしょくせー?」
「食べられるものかどうかのテストだ。刺激臭はしないか、肌に触れてかぶれはしないか、舌に乗せて体調に変化はないか……といった具合で段階的に人体に害がないかを確認していくんだ」
「へー、それで食べられるかわかるんだ」
「茎や葉の部位ごとにそれぞれ24時間ずつ掛かるがな」
「うぇ〜、そんなにぃ〜?」
がくっと肩を落とし、マリーは物欲しそうに野草を見る。
「露崎君? “待て”だぞ」
「うー、わん……」
なんて言って舌を出すマリーに、アユムは肩をすくめ、灯士郎は何か言いたげな顔をする。
先は、まだまだ長かった。