□5周年リクエスト小説@
13ページ/21ページ

◆Z(2/2)

「この通り、な」

 そうしてそっと手を戻せば光の輪は音もなく消える。

「へー。ん、あれ? てゆーかさ……アユムって戦ったわけじゃないんだ?」
「ん? ああ、そうだが」
「なんかピンチに目覚める的なのかと思ったんだけど、違うんだ。灯士郎はそうだったもんね?」

 マリーが問えば灯士郎はうむと小さく頷く。

「きっかけもそれぞれということだろう。君のそれがどういったものかは、残念ながら見当もつかんがな。さて、他に聞きたいことはあるかな、露崎君?」

 問われてマリーはぼーっとアユムを見詰め、少し考えて、そして二人を順に見る。

「ね、二人はあたしのことマリーちゃんって呼ぶ気ある?」

 なんて質問には、アユムと灯士郎も顔を見合わせる。

「今聞くことかそれは」
「この心の距離があたしと二人の差かなって」
「安心しろ。呼ぶ気はないが関係もない」
「じゃあ……」

 と眉をひそめるマリーに、ぽつりと言ったのは灯士郎だった。

「恐らくだが、差はないと思う」
「え?」
「ああ、百鬼の言う通りだろう」

 マリーを真っ直ぐに見据え、真っ直ぐに指差して、アユムは問う。

「覚えはないか。自分を呼ぶスピリットの声に」
「スピリッ、ト?」
「そうだ。どこかで聞いたはずだ。我々と同じように。今、同じようにこうしてここにいるのだからな」

 そんな言葉に根拠などない。自分らしくない物言いだと、そう思いながらもアユムは確信を持って言い放つ。それが確かであることは、すぐにマリー自身が証明することになった。

「ラーナ、モン……」

 少しだけ考えて、いや、思い出すように自らの心を探り、マリーはその名を口にする。

「そう、ラーナモンだ! 夢で見た!」

 もう一度、はっきりと告げたその名に、アユムと灯士郎は不思議な感覚を覚えていた。知っている名だと、そんな気がしたのだ。
 マリーは唇をきゅっと結び、眉を逆八の字にして何度も小さく頷く。今朝方見た夢、だけではない。初めてではなかった。知っていた。この世界へやって来たあの時、あの場所で、とうにラーナモンとは出会っていたのだから。

「そうか。なら時間の問題だろう。焦ることもない」

 それが幸か不幸かは定かでないが。という言葉は飲み込んで、アユムは近くの木へともたれ掛かる。疲れた様子に見えたのはマリーとのやり取りだけが原因ではないだろう。ろくに寝ていないことは目の下の隈ですぐにわかった。

「さて、話が終わったなら出発するとしようか。いつまでもここにいても始まらん」
「あー、そだねー。てかあたしお腹空いちゃったなぁ……」

 こちらへやって来たのが昨日の昼頃。思えばもう丸一日食事を取っていないのだ。今回ばかりはマリーに同意だと、アユムと灯士郎は小さく溜息を吐く。とはいえ、

「先程、食べられるものはないかと辺りを見て回ってきたのだが……」
「え? 探してくれてたの? あぁ〜、ごめん! ちょーぐっすり寝てた」
「構わない。丈夫さには多少自信がある。ただ……」

 といって灯士郎はジャングルを振り返る。鬱蒼と繁る密林の木々、草花は、見るからに見覚えのないものばかりだった。

「どうにも食用かの判断がつかない。下手なものを採って毒でもあっては事だ」
「確かにな。まあ、とりあえずは我慢してもらうほかないだろう」
「うえぇ〜? あたし成長期なんだけどなぁ」
「全員そうだ。辛抱しろ」

 次第に面倒になってきたのかぞんざいにあしらえば、マリーはぷうっと頬を膨らませる。が、すぐにしぼませてぽんと手を打つ。

「あ、そうだ海は? 魚とか取れないかな」
「どうだろうな。まずもって海水でもない。淡水魚がいるにしてもこんな砂浜近くの浅瀬ではな」
「あー、そっか。んじゃあ、なんか磯? 的なとこないか探してみようよ」
「ああ探すとも。だから早く行くぞとさっきから言っている」

 言うが早いかアユムは踵を返し、マリーの返事も待たずに歩きだす。てへっと笑ってぺろりと舌を出したのは見えていたが、華麗にスルーした。

「ああ〜ん、待ってよぉ」

 すたすたと先を行くアユムに、鼻に掛かった甘い声でそう言って、マリーは駆け足で後を追う。そんな口が達者な二人の一連のやり取りの中で、一言も口を挟めないでいた灯士郎は、とりあえず腕を組んだままうんと頷き、特に何も言わずに少し遅れて歩きだす。
 間違いなく息は合っていないが大丈夫だろうか。という懸念は、先送りにした。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ