□5周年リクエスト小説@
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◆Z(1/2)

 気が付けばマリーは、砂浜で空を見上げていた。
 ジャングルから毟ってきた大きな葉の上に横たわり、寝ぼけ眼で青い空を仰ぐ。目覚ましは、電灯の明かりが点くように夜から朝へと変わったその空。要は、昨夜のままだった。
 一晩眠れば何事もなく自分の部屋で目を覚ますのではないか、などという淡い期待を込めて目を閉じた昨晩と、まったく同じ場所で目を覚ましたのである。
 この状況は、やはり現実だったらしい。

 むくりと起き上がり、辺りを見回す。昨晩と違うこと、といえば、ここにいるのが自分一人だということだろうか。そこだけ幻覚だったとしたらもう泣くしかなくなるが、幸いにも葉っぱのベッドはもう二人分ちゃんとあるし、自分のものではない足跡も辺りに沢山あった。

「どこ行ったんだろ……」

 空が極端なせいで時間はよくわからないが、早朝という気はしない。まさかおいてきぼりを食らった訳もあるまいし、恐らく付近を見て回っているのだろう。多分。きっと。
 なんて思っていると案の定、背後からがさがさと草を掻き分ける物音がする。何してたの、と振り向き様に問おうと口を開きかけ、て――しかしそのまま固まる。

「なんだ、ようやくお目覚めか」
「ほぁ……!? あ……え?」
「こんな状況でよくもそうぐっすりと眠れたものだな。羨ましい限りだ」

 などと皮肉げに肩をすくめるのは、怪人だった。トンガリ帽子のような円錐形の頭。四肢は妙に細く、その顔と腹は鏡張り。両手にも大きな鏡を持っている。
 突然現れてさも当たり前のように話し掛けてくるそんな怪人カガミ男に、マリーは一瞬戸惑って、けれども眉をひそめてこう問い掛けた。

「えと……アユム?」

 カガミ男は、ああと頷く。
 服の裾でも払うように片手を振れば、光とともにその姿が人間へと、アユムへと変わる。
 マリーは、わなわなと震えながらぽつりと言う。

「ちょ」
「ん?」
「ちょおっとぉ! ずるい! どうやったの?」

 きー、と歯を食いしばってアユムの肩をがくがくと揺さ振る。

「お、おい待……!」
「ずーるーいー!」
「い、いや、とにかく離し……!」
「露崎、その辺で」

 見るからにインドア派なアユムはマリーにされるがままパンクロッカーのように頭を振らされ、しかしぽんと、マリーの肩を叩いた灯士郎がそれを止める。

「あ、灯士郎。おはよ。どこ行ってたの? まさか二人で特訓してたとか?」
「特訓、という訳ではないが」
「はあ、まったく……」

 解放されたアユムは揺れる頭を抱えながら眉間にシワを寄せ、深々と溜息を吐く。襟を直してこほんと、わざとらしく咳ばらいをしてマリーへ向き直る。

「慌てなくとも話してやる。まずは落ち着け」
「うぃ〜、むっしゅ。マリーちゃん落ち着きまーす」

 なんて言って唇を尖んがらせる。アユムはもう一度、更に大きな溜息を吐いてから語り始める。

「君が眠った後、一人でこいつと、辺りを調べていた」

 言いつつデヴァイスを手にし、ジャングルを振り返る。誰ぞのせいでずれた眼鏡をくいと上げ、肩をすくめる。

「調べるって、こんな訳わかんないだらけなとこを?」
「確かに常識の通じない世界だが、それでも思考を放棄していい理由にはならん」

 ベッド代わりの葉を一枚拾い上げ、アユムは再びマリーへと向き直る。

「観察し、検証し、推測し、また検証する。そうしてトライアル・アンド・エラーを繰り返すことで、僅かなり現状を脱する糸口も見付かるやもしれん」
「ふ〜ん、ふんふん。うん……なるほど」

 うんうんと、頷くマリーが本当にわかっているかは甚だ疑問であったが、ひとまずそれは置いておくことにした。アユムはもう何度目かもわからない溜息を吐く。

「そうこうしていると声が聞こえた。どうにも嫌味ったらしい声だった」
「嫌味……どーぞくけんお?」
「否定はしない。そして夢を見た。ここではないどこかであいつと、メルキューレモンと向かい合っていた」
「メルキューレモンって、さっきの?」
「そうだ。気が付けばまたジャングルだった。後は、昨日の百鬼と同じだ」

 ついと指差せば、灯士郎は腕を組んで深く頷く。アユムはその右手をマリーの顔の前へと突き出して、と思えば掌に光の輪が現れる。

 
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