-花と緑の-

□最終話 『花とヌヌ』 その一 四天王決戦編
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シーンX:真実の姿は(4/8)

「オーウ、なんだかピンチな感じ? ユーたちホントにダメダメネ!」

 万策尽きたと身体以上に心が膝を折り、かけたそんな時。暢気な声は澱んだ空気を無造作に引き裂いて降った。
 どうしてだろう。どこか安堵を覚えたのは。そんな感情を向けていい相手でないことは一目でわかったのに。
 戦いの余波に壁が崩落したアジト中層から、あたしたちを見下ろすその姿を一言で形容するならば、メタルなうんこである。こんな場面には余りにも似つかわしくないビジュアルを引っ提げて、現れたのはそう、ダメモンであった。思いもよらぬ闖入者に口をぱくぱくさせながら目を丸くする。
 いや、あたしたちばかりではない。その登場にはワルもんざえモンさえも訝しげな顔をする。驚いてもいないのはあひゃひゃと楽しそうな誰かくらいのもの。

「ダメモン? どうした。加勢ならば……」

 もう必要はないぞと、言いかけたワルもんざえモンの声を遮ってダメモンは笑う。ワルもんざえモンの配下でありながら敵であるあたしたちをダストシュートへ逃がした張本人。今までの行いからしてあれが本当は単なる罠であったという可能性もいまだ否定はできなかったが、今この瞬間、ダメモンがワルもんざえモンに向けたその表情には主君へ対する畏怖や敬意はまるで込められてなどいなかった。
 言うなれば、嘲笑にすら近いそれ。

「アッハハ、残念だけどそっちじゃないネ、ボス!」
「何だと? どういう……」

 ひょいと、ワルもんざえモンの言葉も待たずに建物の奥へとダメモンが引っ込めば、次に顔を出すのはガスマスク。一人、二人、三人、四人とアジトから飛び降りてくる。否、その表現が適切でないことにはすぐに気が付いた。トループモンたちは受け身も取らずに地面に落ちて、落ちて、また落ちて山のように積み重なっていく。どれもこれもぴくりとも動かない。いいや、動けないのだ。なぜならそのすべてがとうに、中身の抜け切った残骸に過ぎなかったのだから。
 もう一度、顔を出していつもの調子でまた笑う。ダメモンはどこからか取り出したトンファーをくるくると回して得意げな顔をしてみせる。

「これは……! どういうことだ、ダメモン!?」
「見ればわかるネ。ミー、裏切っちゃった! てへ!」

 こつんと頭を小突いてウインクする。傍から見ててもムカつく顔だった。こんな場面でも待ってはくれない黄色い熊と取っ組み合いながら、ワルもんざえモンが僅かに声を荒げる。

「何故だと聞いているのだ! 奴らに肩入れする理由がどこにある!?」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 答えたのは黄色い熊だった。お前じゃないと誰もが思ったが話の通じる相手ではないので誰も突っ込めなかった。しかしダメモンはそんな狂喜の熊をも華麗にスルーし、ぴっとあたしを指差してみせる。

「なあに、ほんのお礼サ! ミーの代わりにハグルモンたちを逃がしてくれた優しい勇者ちゃんへのネ!」
「ハ、ハグルモンだと!? 貴様、最初からそれが狙いか!?」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 だからお前じゃない。っていやいや、そんなことよりハグルモン!? どゆこと!? あたくしも話に加えていただいてよろしくて!?
 訳もわからず呆ける勇者を余所に、何だか知らないところでなおも話は進む。ワルもんざえモンがぎりぎりと奥歯を鳴らし、その裏切りへの怒りを両の眼に燃やす。

「では、病弱な妹の薬代を稼ぐ為に雇ってほしいというのは……!」
「嘘ネ」
「おのれぇ! 謀ったか!?」

 むしろ信じたのか。てゆーか雇ってもらえるのかそれ。薄々感づいてはいたけど人がいいな。いや、熊がいいな。

「ダメモン! 貴様、一体何者だ!?」
「フッフフ! 聞かれて名乗るもおこがましいが、そうまで言うなら答えよう! アテンショぉーン!」

 くるりと片足立ちで一回転。一本指をおっ立てた妙なポーズを決めるとダメモンはゆうに地上3階程度はあろう高さから躊躇なく飛び降りる。
 
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