-花と緑の-

□第五話 『花と縫包の乱 前編』
9ページ/23ページ

シーンU:星屑の勇者(4/4)

 
「ヌヌちゃん、落ち着いたかしら?」
「あ、はい。すんませんした……」

 正座してうなだれる熊の頭をぺちぺちと叩く。熊はとても素直に反省の言葉を口にした。あたしの愛と勇気が起こした奇跡によってどうやら正気を取り戻してくれたらしい。小刻みに震えているように見えるのは恐らく気のせいだ。もっぺん首刈りの峰に頭から没したがちゃんともっぺん引っこ抜いてあげたもの。あたしは肩をすくめてやれやれと溜息を吐く。

「それで、ええと、結局何がどうしたわけ? 何なのそれ?」
「いや、あの、なんかよくわかんないんだけど、思いの外ジャストフィットして……生まれ変わったみたいっていうか、なんか妙にたぎってきて」
「それはもう聞いたけど」
「あ、はい。え、えっと、そんでその、何て言うか、なんだか今なら何でもできそうな気がしてきたっていうか」
「勘違いね」
「はい、そうです……」

 だって女子中学生に肉弾戦で負けて正座させられているのだもの。世界なんて夢のまた夢である。だが、とはいえ何の足しにもならないレベルアップではない。いまだ疑心だらけではあるもの、あるいは本当に預言の“黄色い星”ではないかという思いもミリ単位で辛うじて抱きはじめたところである。

「とにかく、なんかわかんないけどパワーアップしたのね」
「はい。ちょびっとだけさせていただきました」

 俯きながら熊は言う。なぜそこまで謙虚でそこまで元気がないかはさておき、思い描いていたブツと若干違っていたこともさておき、何はともあれあたしたちは“星の剣”らしき何かを手に入れたわけだ。手に入れたのかなあ。まあいいや。

「で、戦えるの?」
「ハナ以外となら」

 きりっと即答する熊の言葉には多少引っ掛かる部分もあった。あったが、どっちの意味でかとかは聞かないでおくことにした。あたしはふうと大きく息を吐き、盗賊団のアジトがある方角を見ながら頷く。熊がゆっくりと立ち上がる。

「そんじゃまあ、ええと……行ってみる?」
「ああ、今の脚力なら駄目でも逃げ切れるしな!」
「そうね。物は試しってことで」

 伝説の武器を手にした勇者一行の会話とは思えなかったが、伝説の武器とは思えないビジュアルなのだからしょうがない。会話内容とは裏腹に精悍な顔で不敵に笑い、がしっと拳とか合わせてみたりする。相手が熊でなければ格好良いシーンだったろう。無い物ねだりしても仕方がないので雰囲気で押し切ろう。
 ざりゅ、と歩調を揃えて互いに大地を踏み締める。威風堂々と肩で風を切る。いい感じのBGMが聞こえた気がした。そうしてあたしたちは――再び決戦の地へと向かう。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ