-花と緑の-

□第四話 『花と伝説の……』
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シーンT:預言の勇者(2/3)

 
 木造の簡素な家々ばかりの村に比べ、ギリシア神話にでも出て来そうなその神殿は明らかに異質だった。ほんの十数段の階段を上り、石柱に囲まれた建物内部へ入る。松明の並ぶ短い廊下を抜けると奥に祭壇だけが設置された広間に出る。部屋はここ一つなのだろう。今やって来た廊下の他に通路は見当たらない。祭壇の左右ではバカでかいゴブレットのような燭台に大きな炎が点り、その揺らめく明かりに照らされた祭壇の前では、誰かが小さな背を向けて立っていた。

「あれが、先程の預言を告げた我が村のシャーマンです」

 そんなもじゃもじゃさんの言葉に、祭壇の前に立つシャーマンがゆっくりと振り返る。浅黒い肌、対照的に明るい髪を逆立て、青い衣をまとう。どこか見覚えのある道具を片手に、大きな目であたしたちを見据える。こくりと息を呑む。少し遅れてやって来たヌヌを一瞥し、あたしは再びシャーマンに視線を戻す。片手を口元に当て、僅かに中腰になって声をひそめる。ねえ、とヌヌに呼び掛けて、

「あれ、ゴブリンだよね」

 ひっそひっそと問い掛ける。モヒカン頭にこん棒の小鬼。もう一度舐めるようにシャーマンを見るも、どこからどう見ようがカラーリングが違うだけのゴブリンでしかなかった。ええと、今度は何かしら。ニセ、モドキと来てお次はエセか何か?

「いや、あれはシャーマモンだ」
「なんとかゴブリモンじゃないんだ」
「預言ができる分、むしろゴブリモンの上位種みたいなもんだな。てゆーかそれより汚濁のことなんだけど……」

 うん、とだけ頷いて会話を終える。しかしいい加減この世界の神様はデザインを使いまわし過ぎではなかろうか。何だか盛り上がっていた気持ちに水を差された思いだが……いやいや、見た目に惑わされてはいけないぞベイベー。シャーマン以外に職業選択の自由が欠片もないような名前で生まれ落ちたのだ。もじゃもじゃさんたちも信頼しているみたいだし、ああ見えて優れた預言者に違いない。きっと。多分。
 シャーマモンは少しの間、あたしをただ無言で見詰める。そうして、己が預言を確信するかのようにゆっくりと頷いて、こう言うのだ。

「ゴブゴブリ」

 威厳に満ちたそんな声に、あたしもまた黙って頷く。ああ。うん。そうだね。
 いやいやいや、はっはっは。うん。何て言うか、あれだよね。よかったね、ヌヌ。汚濁である可能性が大分薄まったよ。
 人肌くらいまで熱の冷めた目で無機質に微笑む。うまく行き過ぎてた気はしてたよ。と、遠くを見る。そんなあたしの顔を見てもじゃもじゃさんが慌てた風に首を振った。

「きゅ、救世主様! 大丈夫でございます! 我が村にはシャーマモンの言葉を解読できるものがおります故!」

 ぐぐぐと拳を握って力強くそう語る。てゆーかやっぱり大多数は意思の疎通ができてないのか。

「ご覧ください!」

 片腕を広げる。差す手の先には続々とやって来る村人たち。その先頭の一人がずずいと前に出る。ブーメランを片手に不思議な仮面を被ったいかにもなその姿。

「彼こそ我が村の誇るもう一人のシャーマン、セピックモンでございます!」

 と誇らしげに言ったもじゃもじゃさんに、ブーメラン仮面もといセピックモンはぺこりと頭を下げる。そうしてシャーマモンの前まで歩み寄り、互いにしばし見詰め合う。やがて、再びシャーマモンが口を開く。
 
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