-花と緑の-

□第三話 『花とモヒカン狂想曲』
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シーンX:藍色の希望(2/3)

 
「うぃ、うぃうぃ〜〜っ!」
「ウィザーモンか、その声!?」

 二枚目過ぎるタイミングに名前を呼ぶことすらままならないあたしに代わり、ヌヌが問えば答えた声は紛れも無い彼の魔術師その人であった。ディスプレイにはどこか彼に似たドット絵が浮かび上がる。

『ウィウィが誰かは知らないが、ああ、私だ、ウィザーモンだ。よかった、二人とも無事かい?』
「おう、まあまあピンチだったが、無事っちゃ無事だ」
「いや、大ピンチだったし!」

 地獄と地獄の二叉路から奇跡的な生還を果たしたところだ。地獄出身と一緒にするなよこの野郎。

『そうか……いや、鉱山にほったらかしにしてきた盗賊の残党が気になってね、気をつけてくれと言いたかったのだが』
「遅いよ!?」
『そのようだね、すまない』

 ディスプレイの向こうで申し訳なさげに頬を斯く姿が目に浮かぶような声色だった。突っ込んどいて何だが悪いのは大体あたしらです。何とも言えない顔をしてみるとヌヌも同じ顔をしていた。

『しかし驚いたよ、まさかもう山を越えていたとは。どうやったんだい?』
「……あい?」

 そんな言葉にヌヌと顔を見合わせる。見合わて、間抜けな顔で素っ頓狂な声を上げる。

「ええと……え? 越えたの? 山を?」
『うん?』
「てゆーか、ええ!? あたしたちがどこにいるか分かるの!?」

 目をぐるぐるさせながらちっちゃなディスプレイに鼻から突っ込むように詰め寄る。たじろぐような顔が見えた気がした。

『デジヴァイスの反応を追えばおおよその位置は分かるが……ああ、何だか大変そうだね。大体察しはついた。少し待ってくれ』
「少し? え、何が?」

 と、問うが早いか、ディスプレイの向こうから呪文の詠唱が聞こえる。訳も分からぬままとりあえず黙って正座で待機することしばし、詠唱が止むと同時にディスプレイから光の帯が現れる。

「おおおぉ!?」

 驚くあたしたちの目の前で帯はうねうねと蛇のようにうねり、やがてそれらは山や森を形作ってゆく。

『デジヴァイスを介し周辺一帯の地形をスキャニングしてジオラマ化してみた。急ごしらえの追加プログラムだが、これでどうにかならないかい?』
「ぅおおぉぉーん、おーん! ウィっさぁーーん!」
「十分だウィザーモン! オイラも泣きそうだぜ!」

 もはや言葉にもならないあたしに代わってヌヌがグッジョブと力一杯のサムズアップで応える。サウンドオンリーな通信じゃ見えない気もするけど、細かいことはこの際よしとしよう。

『そうか、それはよかった。ウィっさんが誰かは分からないが、役に立てて嬉しいよ』

 という、爽やかな笑顔が目に浮かぶような物言いは相も変らぬイケメンぶりである。どこぞの毒物から汚物を生成するだけのヌメヌメとは大違いだ。やはりあたしは勇者として持っているべき手札をどうしようもないほどに間違えていたのだ。ちょっとディーラー呼んで来い。あたしはただただ悲涙と感涙に咽び入るばかりであった。
 
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