-花と緑の-

□第二話 『花とパチモン男爵』
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シーンX:邪神の悪夢(5/6)

 
「そおぉぉぉこおぉぉぉかあぁぁぁぁーー……!?」

 少しの静寂を置いて、草むらががさりと揺れる。ゆっくりと振り返る。そこにご降臨あそばされたのは邪神様でございましたとさ。

「ほにゃあああああぁぁぁぁぁーーー!?」
「なぜ叫んだんだぁぁーーい!?」
「ごめえぇぇーーん!?」

 つい、ついなのよ。ほんの出来心っていうか何ていうか。テンション上がりまくってちょっと頭がバグってたっていうか。さっき一瞬頭が冴えた気もしたけど気の所為だったみたい。マジごめん。心の中で土下座をしながらまた逃げる。邪神は草むらを蹴散らしながらあたしたちに追い縋る。パンクロッカーのようにベッドバンギングしながら邪魔な木を薙ぎ倒して迫るその姿にはもはや理性すらないように見えた。
 そうして気付けば、視界がやたらに広くなっていく。木も草も、あたしたちを隠してくれるものがどんどん失くなっていく。

「さあ……」

 倒れた木を砕かんばかりの勢いで踏み締めて、邪神がにたりと笑う。

「生まれたことを、後悔するがいい……!!」

 あああああぁぁぁおおぉぉぉん!?
 もう十分後悔してますけれども!?

 背筋が凍り付いて叫べもしない。もはや逃げ場はなくなったと理解して、あたしたちはムンクみたいな顔になる。
 どうする? どうする!? どうするのおぉぉぉ!?
 思考はぐっちゃぐちゃ。目はぐるんぐるんと回る。体中の水分を汗にして噴きながら、あたしは後退る。こつんと、かかとが何かを蹴飛ばした。そうして、はっとなる。

「ねえ……火、一発くらいならいける?」
「え? あ、ああ。だが成熟期を倒せるような……」
「いいから! “あれ”燃やして!」

 指を差して叫ぶ。あたしの言わんとしていることを理解したか、ウィザえモンは即座に杖をかざし、残る力の全てを炎に変えて放つ。と言っても精々ライターより少し大きいくらいの火力。とても邪神になど太刀打ちできるものではなかったが、それでいい。

「ぬぅ!?」

 炎が狙うのは邪神に切り倒された山の木々。青々と茂る葉に点る火は周囲の草葉に連鎖して、あたしの腰ほどの高さに燃え上がる。

「こんなものおぉぉぉ!!」

 勿論それだけで倒せるはずなんてない。ないけれど、少しの足止めにはなる。

「ちょっとこれ持ってて」
「え? これは……」

 さっき拾った“それ”をウィザえモンに投げて渡す。長々と説明している暇はない。あたしは振り返り、ヌヌへと真摯な眼差しを向ける。

「ヌヌ」
「ぅえ!? オイラ!?」
「ええ。今こそ、あたしたちの力を合わせる時がやって来たのよ」
「ハ、ハナ……?」

 ヌヌが呆けたように口を開く。でろんと、よだれと涙が溢れる。感動から来るそれだとは分かったので嫌な顔をするのは我慢した。

「ハナあぁぁ! ついに、ついにその時が来たんだな! やって来たんだな!?」
「ええ、そうよ。さあ、行きましょうヌヌ!」
「おおお! ようし来た! さあ、何でも言ってみろ!」
「じゃあ、ここに乗って!」
「ここ?」

 こん棒を差し出す。ヌヌは不思議そうな顔をしながらもにゅるりと乗る。

「こ、こうか?」
「ええ、いいじゃない! さすがヌヌ!」
「お、おお、そうか?」
「ふ、二人とも! もうもたないぞ!?」

 ウィザえモンの言葉に再び邪神を見る。燃える木々すらもドリルで蹴散らして、道を抉じ開ける。僅か数秒だが、足止めももう限界だ。
 大丈夫。いける。信じろ! 他ならぬあたしを! やればできる子だ!!
 
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