-花と緑の-

□第二話 『花とパチモン男爵』
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シーンW:悪魔の戦い(4/5)

 
「ハナ、す巻きにして草むらに捨ててきたぞ!」
「ご苦労様」

 廃坑から外へ出るとすぐにヌヌが息を切らせて駆けて来る。はあはあ言っててとてもきもかった。てゆーか仕事がやたらに早いな。何に追い立てられているんだ。

「よし。二人とも、入口塞ぐから手伝って」
「お、おう」
「心得た」

 やけに素直な二人と一緒に壊れたバリケードを修繕する。そこらに転がる木の板を起こして辛うじて残る枠組みに立て掛けたりと、直すというよりはがらくたを積んで隙間を埋めているだけではあるが。確かにこんなもので閉じ込めるなんてヌガーのように甘い考えだ。そう、できっこない。できっこないけれど、盗賊を閉じ込める必要なんてないのだ。木材は中へ放り込み、錆びた金属やらはバリケードの隙間に押し込んで補強に使う。

 ふう、と息を吐いて、額の汗を拭う。やがて廃坑の入口にはがらくたで不格好に補強されたバリケード、少し中へ進んだ辺りには壊れた荷車やら木片やら枝葉が積み上がった山ができあがる。ついでにヌヌの反対を押し切って毒リンゴも混ぜてやる。
 まあこんなものか。あたしは少しだけ残しておいたバリケードの隙間を指差して、ヌヌとウィザーモンへ視線をやる。

「ウィザーモン、火お願い。ヌヌ、あれ燃やしてきて」

 と言えばさすがに二人もあたしのやろうとしていることを理解する。どういうわけか感服と畏怖が混じったような複雑な表情ではあったが。

「な、成る程。よし、分かった」
「君は中々に冷徹な戦士だね」

 ウィザーモンが火を点した木片を受け取り、ヌヌがバリケードの隙間から中へと潜り込む。いいのかこれでと言いたげな顔をしつつ、一度だけこちらをちらりと見てから、ややを置いてヌヌは木材の山に火を放り込む。
 パチパチと音を立て、次第に火種が大きな炎となっていく。ヌヌが脱出してから出入口用の穴を塞ぐ。やがてもくもくと、煙が立ち込める。

 そう、バリケードで閉じ込めるのはこの煙。これぞ名付けて“おぺれえしょん・ばるさん”!

 隙間から漏れる白い煙に、ヌヌとウィザーモンの頬を一筋の汗が伝うが、いいんだよ。勝てば官軍なのだから。勝ち方を選ぶなど戦いを愉しむバーサーカーのすることだ。英雄であらば世のため人のため正義のため、何より勝つことこそを最優先して然るべきなのだから。あたしまたいいこと言ったんじゃない?

「ま、まあ合理的ではあるね」
「あらあらウィザーモン。どうしてお顔が引きつってるの?」
「い、いやいや、そんなことはない。そ、そうだ。私ももう少しお手伝いしようか」

 そう言って慌てて目を逸らしつつ、ウィザーモンは杖を水平に構えてぶつぶつと小さく何かを呟く。言っておくけどあたしだって何一つ思うところがないわけじゃないんだからね。ちょびっとくらいはどうかと思ってるよ。

「“バルルーナゲイル”!」

 なんてあたしが心の中で言い訳をしていると、杖をかざしてウィザーモンが呪文のような言葉を紡いでみせる。杖の先端にエメラルドグリーンの光の筋が幾何学模様を描いて渦巻いて、紋様の中心を起点に風が巻き起こる。おおお、魔法っぽい! 胸に巣食う後ろめたさも忘れて思わずはしゃぐ。タクトのように杖を振るえば、細い気流の筋がバリケードの隙間から漏れ出る煙を押し込めていく。

「か、風も使えるの?」

 火と風と交信魔術、他に一体どんな魔法が使えるのだねというようなニュアンスで、抑えたつもりが抑え切れてはいなかった笑顔でわくわくしながら聞いてみる。しょうがないじゃないか。リアル魔法だもの。

「ああ、一通りのアトリビュートは体得しているよ。広く浅くなってしまった感は否めないけれどね」

 ほ、ほほう。よく分からないがとにかくいろいろ使えるんだな。勇者様権限でちょっと見せてくれ給えとか言えたりしないだろうか。てゆーかどうにか丸め込んでこのまま連れてけないだうか。

「ところで、そのうち飛び出してくるものもいると思うのだが、そうなったら戦うのかい?」
「え? あ、えーと……うん、まあ、そんな感じで」

 左上を見て、右上を見て、ウィザーモンには視線を戻さずにうんうんと頷く。そこまでは考えてなかったとはとても言えなかった。

「よし、では罠も仕掛けておこう。と言っても今からではたいしたこともできないが」
 
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