□デジモン観察日記
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■7月-2
卵だった。
勉強机の上を半分以上占拠する20インチのモニタの中からずるりと這い出してきたのは、どこからどう見ても卵以外の何物でもなかった。
恐る恐る、なんて言葉がぴったりなへっぴり腰で指だけ伸ばしてつついてみる。反応は無かった。
何だろう。何で卵が出てくる。ウイルス? なわけないか。
中学に上がった年、両親からプレゼントされた初めての自分専用パソコン。両親はパソコンなんてものが大の苦手で、元々家族共有のパソコンですら自分がほとんど占有していたようなもの。聞きかじっただけの知識でちょっと話せば、パソコンに疎い両親が偉く褒めるものだからついつい調子に乗ったりして、ビギナーズサポートとか言うのを断っちゃったりしたこともあったがきっと関係ない。多分大丈夫だろうって、ウイルス対策やら何やら、ちゃんとやってなかったりしたこともあったがきっと関係ない。
うん。そうだ。全然関係ない。自分、全然悪くない。きっと。多分。
関係ないけどだったらこの卵は一体何なんだ?
再度つんつんつついてみるもやっぱり無反応。幾らつついても余りに反応が無いもので、次第に警戒心も薄れていく。一瞬だけ躊躇って、キーボードの上に落っこちたままの卵を拾い上げる。ちょっと暖かい。振ってみる。無反応。耳を当ててみる。何か聞こえる。小さいけれど、鼓動のような。
しばらく卵と睨めっこ。ちらりと横手へ目をやると、カーテンの隙間から細く朝日が差し込む。気付けば夜は明けていた。視線を戻す。散らかった机の上で、白紙のノートが目に付いた。
卵をベッドの上に置いて、カーテンを開く。低い太陽が建物の隙間を縫って部屋に日差しを投げ掛ける。気持ちのいい、朝だった。
ベッドを振り返る。卵は、小さく揺れていた。
机の前に立つ。白紙のノートを手に取って、もう一度卵を振り返る。
今年の、自由研究のテーマが決まった瞬間であった。