□エイプリルフール企画'13
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第壱章:黄金の悪夢(3/4)
ヌメモンが立ち上がる。足とかないけど多分そんな感じの動作。眼差しは強く、瞳の中には火が点ると錯覚するほど。そうして、真っ直ぐに天使を睨み据える。
「訳のわかんねーことばっかごちゃごちゃと……」
「ヌ、ヌメモン?」
地を揺らし、焔を背負う。まさに魔王が如き、そんな幻が重なり見えるほどのプレッシャー。なんかえらいことになってる!?
思わず後退り、天使は息を飲む。ぐ、と小さな声が漏れて、かと思えば強く一歩を踏み出し地を叩く。やはり我が目に狂いはなかったのだと、これまで以上に闘志をたぎらせる。呑まれかけた戦意を奮い立たせる。
「魔王……っ!」
「誰がぁ……魔王だあ!? いい加減にしろよゴルァ!!」
叫び、吠え、轟く。もはや錯覚などではない。ヌメモンの体からは黄金の炎が噴き上がり、辺りの空気がびりびりと震える。ちょっと待って何そのスーパー何とか人!?
「よくもここまで俺様を虚仮にしてくれたな下郎が……!」
重力の枷すら嘲笑うように、炎を纏ってふわりと宙に浮かび上がり、ヌメモンが静かに言う。冷たい怒気を孕む声はまるでそれそのものが一つの凶器のように鋭く心を刺す。魔王――そんな大仰な肩書が真実であると、証明するには十分過ぎるほどの威圧感だった。
てゆーかどうでもいいけどまだ会って間もないんだからそんなころころキャラ変えないでもらえないだろうか。
「もはや生きてデジタルワールドの土は踏ません……苦しみながら! 悔いながら! データの屑に還るがいいわっ!!」
ふはははは、と。地獄の底から漏れ出るような高笑いがこだまする。ヌメモンを包む炎は更に輝きを増して、やがて太陽にすら似た光の激流となって荒れ狂う。
「これは……!」
「見るがいい……我が真の姿! 真の力を! ヌメモン――超ぉぉぉ進化あぁぁ!!」
咆哮とともにまばゆい閃光が弾けて爆ぜる。光があたかも質量を持つかの如く轟音が大気を震わせる。あまりの光量と音量に思わず瞼を閉じてうずくまる。もうずっと訳がわかんないけどとりあえずお前ら近所の迷惑考えろ。ここ市街地だからね!?
ややを置き、あたしは顔を上げる。光と音はいつの間にか止んでいた。ゆっくりと瞼を開いて、その姿を仰ぎ見る。天使もまた同様に。
「これが……!?」
魔王、だとでも言うのか。基本的な造形は先程までと変わらない。けれどその全身は太陽が如き黄金の輝きを纏い、背にはきらびやかな翼を携える。とても悔しいがちょっと神々しくさえ思えてしまった。
「そう――神なる血脈に連なる万物万象の王にして太陽の化身! 我が名は“ゴールドヌメモン”!! さあ、ひざまずくがいい、愚民どもよ!」
高らかに己が名を告げる。なんか相当に盛ってる気もするけれど。てゆーか愚民どもってなんだ、どもって。いいからお前らあたしのいないとこでやれ!
「戯言を……!」
「はっ! 身の程を知るがいいわ!」