□エイプリルフール企画'13
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第壱章:黄金の悪夢(2/4)

 
「いや、違うけど」

 簡潔に、ただそれだけの言葉を返し、ヌメモンは気まずそうに目を逸らす。
 違うけど。って、何?

「今、何と?」

 思わず呆気に取られたように一瞬言葉に詰まりつつ、問い返した天使の声に抑揚はなかった。当のヌメモンは何とも言い辛そうに目を泳がせ、

「いや、だからオイラ……その、魔王、とかじゃないけど」

 そう言ってどこか申し訳なさそうにぽりぽりと頬を斯く。てゆーかそれ指でそこほっぺなんだ。いや、そんなことよりこれって要するに、

「人違い……なの?」
「つーかモン違い?」

 あれだけ恰好つけて勿体振っておいてまさかの? え? ただの勘違いでしたと、そうおっしゃるのか。

「え、なに、ホントに違うの?」
「オイラのどこをどう見たら魔王なんだよ」

 ごもっとも。
 何だか他人事ながら無性に顔が熱かった。天使の顔を直視できない。何とも言えない空気が重苦しくて息苦しい。

「ええと……」

 何か言おうとして、けれど言葉が出てこない。あたしはそろりと天使へ目を向ける。気のせいかその肩は小さく震えているように見えた。一方的に迷惑を被っただけなのに何だか気の毒にすら思えてきた。

「まあ、なんだ」

 ヌメモンが妙に明るい声で沈黙を破る。が、続く言葉は語尾に力がなく、

「間違いは誰にでもあるっていうか、ないっていうか……」

 尻窄まりに言ったヌメモンに、しかし天使はふと笑みを零す。不気味なほどに迷いのない、晴れた顔で。何やらとても嫌な予感がした。

「そ」
「……そ?」
「そんな虚言に惑わされる私ではありません!」
「え……えええ!?」

 叫び、両腕の剣を構えて天使は跳躍する。その刃の翼を広げ、宙に立つ。その身に炎のような戦意を纏って。ちょっと自棄になってない!?
 天使は剣の右腕をびしいっとあたしたちに突き付けて、

「戯れはここまでです。お覚悟を。魔王とそのテイマーたる少女よ!」
「テ、テイマー?」

 自分を指差しながら首を傾げて思わず頓狂な声を上げる。なんかまた知らない言葉が出て来た。あたしのことを言ってるようだが相変わらず何が何だかわからない。とりあえず一個ずつ説明しろっての。てゆーか今、覚悟って……?

「あ、あぶねえ!」

 ヌメモンが叫ぶ。目前まで迫った天使の刃からあたしを庇うように飛び出して、だがその刹那。

「うわ、汚っ!」

 あたしは迫るナメクジを間一髪でかわし、ついでに天使の刃も避ける。刃が空を切り、ヌメヌメボディも空を切ってアスファルトを滑る。ずりゅりゅ、なんて気色悪い音を上げながら。

「……おい」
「あ、ごめん。つい」

 たとえるなら、酔っ払いのぶちまけたゲロの跡。そこら中に体液を撒き散らした悲惨な状態で非難の声を上げるヌメモンに、さすがのあたしも罪悪感が込み上げる。うん、確かに今のは酷かった。けど……うわぁ。ヌメモンのあまりにもあんまりな惨状に思わず目を背ける。

「くっそう、何だこの仕打ち。オイラが一体何をしたと……」
「いや、ごめんて。てゆーかそれ言ったらあたしも関係ないし」
「ぐうぅ。それもこれも――」
 
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