□エイプリルフール企画'13
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第壱章:黄金の悪夢(1/4)
例えばの話。
放課後の通学路で突然まばゆい光に包まれ気付けば何やら訳のわからない生き物が目の前にいた、などという場合、平均的な女子中学生はどのような反応をするものであろうか。
例えばの話。
その訳のわからない生き物に次いでまた別の訳のわからない何かが現れ、あまつさえそいつらが何やら穏やかではない状況にある、などという場合、平均的な14歳の少女はどのような反応をするものであろうか。
例えばの話。
それがもし例えでなかったとしたら、今まさに訳のわからないトラブル真っ只中のあたしは、一体どんな反応をすればいいのだろうか。
「ようやく見付けましたよ」
訳のわからない何か、もとい、全身に銀色の鎧を着込んで刃物でできた翼で宙に浮く天使が、剣そのものの腕であたしたちを指す。
あたしたち――そう、あたしと、訳のわからない生き物その一。ほんの数分前に光とともにあたしの目の前に突如として現れた謎の生物。緑のヌメヌメとした体、口から垂れ下がる紫の舌、頭に生えた二本の触手の先には二つの目玉。言うなればそう、巨大ナメクジ。
「ヌメモン……知り合い?」
引き攣った顔で数分前に本人の口から告げられた名を呼び問えば、巨大ナメクジことヌメモンは頭をぶんぶんと振る。頭か胴かは知らないが。
「オ、オイラが知るわけないだろ。生き別れのお兄ちゃんにでも見えんのかよ」
足元でぷるぷる震えるヌメモンと、その真横。挨拶代わりとばかりに天使が切り裂いたアスファルトの裂け目を一瞥し、あたしもまた身を震わせる。
そんなあたしたちに天使はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「おっと、失礼。また逃げられても面倒かと思いまして、つい」
にやりと、口角を上げて天使は小さく頭を傾ける。
「これ以上手荒な真似はしたくありません。お嬢さん、どうか大人しく“それ”をこちらへ引き渡してください」
「それ……って、ヌメモン?」
ちらりと、視線を落とせば当のヌメモンはこくりと息を飲む。と、天使はくすりと微笑を零し、
「ヌメモン……ですか、これはまた。ご本人がそう名乗られたので?」
「え? ヌメモン、でしょ?」
問えばヌメモンはあたしを見上げて眉をひそめながらこくこくと頷く。どうでもいいけどその眉どっから生えた。
「そ、そうだぞ。見てのとおりのただのヌメモンだ。も、文句あんのかよ!」
「ふ、御冗談を。いいですかお嬢さん、貴女の匿っているそのヌメヌメはただのヌメヌメではありません」
詩吟を紡ぐように天を仰ぎ、天使は言葉を継ぐ。
「そうでしょう、魔王殿?」
ま、魔王……? って、言われても。
てゆーか匿うとか引き渡すとか魔王とか、そもそもさっき会ったばっかなんだけど。交わした言葉なんて「何なのあんた!?」「あ、オイラはヌメモン。よろしくな」だけだけど。直後にこの天使が現れ何一つ事態を把握できないままなんだけど。いい加減に誰かこの状況を説明してはくれないものだろうか。てゆーか断言してもいいけどあたし絶対関係ないしこれ。
「魔王……」
困惑するあたしの隣でぽつりとヌメモンが零す。言葉をなぞり、反芻するように。少しの沈黙。そうして、やがてヌメモンは再び口を開く。