□エイプリルフール企画'13
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第壱章:黄金の悪夢(4/4)

 
 地を蹴る。風を打つ。重たい音だけを残して瞬く間に両者の姿が消える。僅かの静寂を置き、響いた金属音にはっと上方へ目を向ける。彷徨う視線がややあって激突する天使とヌメモンの姿を捉えた。バトル漫画でよくある奴だこれ!
 閃光が瞬く。剣風が逆巻く。天使の剣とヌメモンの翼が鎬を削り、火花を散らす。金属の軋みが数度、茜の空を震わせて――乾いた音が、夕闇を舞う。そうして、天使が膝をつく。

「く……馬鹿な!」

 アスファルトに突き刺さる刃。中程で折れた自らの剣に、信じられぬと怒号する。ヌメモンはただ冷たく、ひざまずく天使を空より見下ろして薄く笑う。

「馬鹿は貴様だ。いまだ力の差も解らぬか」

 ぎり、と天使が歯列を鳴らす。傷付いた体に鞭を打つように強く地を踏み締めて、再び立ち上がった天使のその目に宿るのは覚悟か、あるいは――

「成熟期風情にこの私が……認めるものかあ!」
「ならば身をもって知れい!」

 咆哮が重なり響く。刹那の間隙に視線と思いとが交錯し、そして、

「ホおぉーリいぃーエスパぁーーダ!」
「ゴおおぉぉルドぉエクスっクレメント!」

 天使が残る片腕の剣より白銀の斬撃を放ち、ヌメモンがその体より巨大な黄金塊を生み出す。激突は瞬間に。鋭く重い金属の摩擦音。刹那、金と銀の金属片が、舞って散る。

 綺羅星の雨が篠を突く。きらびやかな輝きの中に戦いは――決着する。

 天使の斬撃は黄金塊を切り裂き、粉砕するも、しかしその威力のすべてをそれのみに費やし、ヌメモンへは届かない。対し、砕かれた金塊はそれでもなお勢い死なず、黄金の矢となって天使を襲ったのだ。軍配は、まさかのヌメモンへと上がる。
 勝者たるヌメモンはゆっくりと地へ降りて、その翼を手のように、羽先で天使を指差す。

「黄泉路へ旅立つ貴様への俺様からの手向けのその黄金があの世の川の渡し賃だ! あの世で懺悔してせめて安らかに眠るがいい! アリーヴェデルチ!」

 びしっ、とポーズを決めて言い放つ。これが勝利者の特権なのだとでも言わんばかり。敗者には吠える権利さえもないのだと。でもその決め台詞はもうちょっと整理したほうがいいと思うな。
 倒れた天使は呻き声を漏らしながら体を震わせる。起き上がることももはやままならないのだろう。その身に降り注いだ黄金片ががらがらと落ちる。粉々になったことだけがせめてもの救いだったろうか。あの金塊、形は言い訳のしようもないくらい完全にうんこだったからね。てゆーかあの世に旅立ってないぞ。

「ふ……」

 不意に天使の体から力が抜ける。横たわるまま、もはや煮るなり焼くなり好きにせよとでもばかり。
 眉をひそめたあたしとヌメモンに、天使は空を仰いで静かに言った。そんなことより人が集まってくる前に早く立ち去りたいんだけど。

「ふふ……お見事です。私の如き一兵卒ではまるで相手にもなりませんね。ですが――」

 ふと、黙して空を凝視する。その視線の先、遥かな空より降る小さな音に、あたしとヌメモンははっと目を向ける。茜色に焦げた夕空に走ったのは亀裂。空間の裂け目。

「な、何!? 何なの!?」
「これは……ゲートか!」

 ゲート? って、扉? 何の!?
 あたしの困惑を余所にヌメモンが強く空の亀裂を睨み据え、天使が低く笑みを零す。だから説明しろよこの野郎!

「ふふふ、ここまでです。じきに私の仲間たちが……」
「はっ!」

 天使の言葉を遮ってヌメモンが笑う。まるでこの状況を楽しんでさえいるかのように。いぶかしげにヌメモンを見る天使とあたし。ヌメモンは黄金の翼で風を打ち、高笑いを上げてみせる。

「ふはははは! 面白い!!」
「な……何を!?」

 驚愕する天使にヌメモンはますます声を張り、その翼の先端で空の亀裂を指す。

「愚かなる天使ども! 貴様らの鮮血を! 紅蓮の花をもって我が覇道を飾り立ててくれよう!! ふ、ははは……ふははははははあ!!」
「ぐ……そんな、戯れ事を……!」
「はっ! 負け犬は地べたで好きなだけ吠えていろ! さあ、行くぞ小娘!」

 言われて、少し。半ばほうけながらはっとなる。

「え? あたし?」
「これより進むは修羅の道! 覚悟はいいな!?」

 邪悪と狂気を煮詰めたような醜悪な笑みを浮かべ、ヌメモンは天へと雄叫びを上げる。覚悟もなにも……え? いや、だから何が!? あれ? あたし今なんかとんでもないことに巻き込まれた!? 何で!? いつの間に!?

「え? ちょっと……?」
「さあ! 神殺しの――始まりだ!!」
「は!? ええ!?」

 空の裂け目よりやがて無数の天使たちが姿を現す。もはや後戻りなどできはしないのだ。退くも地獄、進むもまた地獄。てゆーか……

「何これえ!?」
 

>>続く!


>>第壱章:挿絵
 

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