□第十六夜 琥珀のメモリアル
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16-4 永遠の物語(2/1)

 
 音が聞こえた。そんな気がして、私はそっと瞼を開く。
 夢を見た。どんな夢かは忘れてしまった。悪夢だったろうか。けれど、醒めてしまえばこの胸に残るのは一抹の寂しさ。
 ぎゅ、と。胸に当てた手を強く、強く握り締める。

 あれから――“薔薇の明星”の戦いから、半年余りが過ぎた。

 秋を経て、冬は去り、春が来た。夏の終わりに見た夢は、炎天の陽炎のように儚く過去へと消えてゆく。いつか大人になった日に、私はあの夢を鮮明に思い出すことができるだろうか。辛いこともあった。悲しいこともあった。いっそ忘れてしまいたいことが、沢山あった。それでも――手放したくない思い出が、そこにはあった。

 私は、この思い出とともにこれからも生きてゆくのだろうか。この、リアルワールドで。
 リアル――そう、これが私のリアル。あの日見た夢は、黄昏に迷い込んだアンリアル。明けるべくして明ける夜。醒めるべくして醒める夢。常識外れのナイトメア。辿り着いたこの朝は、待ち望んで待ち焦がれたあの悪夢の果て。

 嗚呼……らしくないなと、自嘲する。

 前を向こう。そして時には、空を仰ごう。躓いたっていい。転んだっていい。明日を目指して、歩き続けよう。
 夜はいつか明けるのだ。夢はいつか醒めるのだ。そんな希望を胸に、私たちは戦ってきたのだ。これまでも。これからも。ずっと、ずっと。

 涙はいらない。ただ笑おう。お仕舞いはお別れではない。私たちは、サヨナラを言わなかった。どうしてと言うなら何となく。これが最後ではないと、そんな気がしたから。

 そう、きっと最後じゃない。確信めいた予感があった。だって、夜が明ければ朝が来るように、日が暮れれば再び夜が訪れるのだから。

 きっと――ほら、こんな風に。

 音が聞こえる。旋律が聞こえる。歌声が聞こえる。閉じた扉が再び開く。あの夜の夢の続きが、また始まる。
 見慣れたリアルに現れた、見慣れたアンリアル。その非常識なイキモノは、馴れ馴れしく私の名前を呼んで笑う。

 溜息を吐く。肩をすくめて、けれど笑い返す。新たな夜がやって来る。
 そう、終わってなどいないのだ。
 私たちが本当の夜明けを迎えるのはこれより五つもの戦場を経たその先。今はまだ知る由もないことだったが――それはまた、別のお話。

 だから、今はただこの言葉を口にしよう。

 嗚呼――

「悪夢だ!」
 

-NiGHTMARE-
-完-



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