□第十六夜 琥珀のメモリアル
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16-2 明日の追風(5/5)

 
「ねえ、それって……」

 少しだけ重く沈んだ空気の中で、マリーの上げた声だけはいつもと何も変わらない。顔付きは真剣だったけれどもどこかのほほんと。

「結局、今までと何が違うの?」
「え?」
「だって、どっちにしたってあいつら倒すんでしょ?」

 あっけらかんと、言い放つ言葉はしかし、これ以上ないほどに正論だった。ぐうの音も出ない。そんな顔でアユムはマリーを見る。呆れたのだろうか、それとも関心したのだろうか。君には敵わないなと、顔にはそう書いてあった。

「まあ、確かにそうだけど」

 肩をすくめる。そう、その通りだ。今までぼんやりとしていたゴールらしきものがようやく見えたと、それだけの話だ。
 くすりと、私が笑えばマリーも笑い返し、すっと、その細い手を差し出す。

「え、何?」
「要するに、これからも一緒に頑張ろうねって話でしょ?」

 この上なく嬉しそうに笑う。この子はきっと、人が好きなのだろう。本当ならこんな戦場になど来るべきではない、そんな優しい子。私は知らず微笑んで、その手を取った。

「あたしは露崎真理愛。マリーって呼んでね。十四歳よ」

 遅くなった自己紹介は、固い握手と笑顔の中で。ほら、と促されて、灯士郎が小さく笑う。

「百鬼灯士郎。十五だ」

 やれやれと、アユムが肩をすくめた。満更でもない、といった顔だった。

「仙波歩だ。歳は同じく」

 マリーと、灯士郎と、アユムが私を見る。ふっと零れた笑みは気恥ずかしくてだろうか、嬉しくてだろうか。三人を見返せばその目に映る私が見えて、また笑う。

「葵日向よ。十六歳。何だ、私が一番上か」
「あ、やっぱそうなんだ。それじゃあ、ヒナタお姉様?」

 なんてからかうマリーに溜息を一つ。握手を交わす手をほんの少しだけ強く、

「もう、呼び捨てでいいから。ともかく……改めて宜しくね、みんな」

 願わくばこの手を繋いだまま、手と手を取り合ったままに同じ道を進めますように。同じ場所を目指して行けますように。と、祈りにも似た想いをいつか来る明日の夜明けへと馳せる。

 さあ、歩き出そう。飛び立とう。行き先は明日吹く風が知っている。
 果ての見えないこの悪夢も、仲間がいるなら越えてゆける。そうやって、私たちは昨日の悪夢を乗り越えて、光溢れる今日という日へやって来たのだから。大丈夫。これからもきっと、きっと――
 
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