□第十六夜 琥珀のメモリアル
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16-2 明日の追風(4/5)

 
 いつかリリスモンが言っていた。帰りたいなら来た道を引き返せばいいのだと。答えは疾うに示されていた。ここへと到るそもそもの理由が、ここから帰るただ一つの方法。けれど。

「待って。なら、その“役目”って……」

 終末の魔神・サタンの復活。それによる世界の浄化、リセット。そのために、それを為すためにホーリードラモンは世界と契約し、選ばれし子供をこの世界に招き入れた。だとするなら、その選ばれし子供が果たすべき役目も当然、

「ホーリードラモンに、協力しなきゃ帰れないってこと?」

 ぐにゃぐにゃと眉を歪めてマリーが問えば、アユムはただ無言で頷いてみせる。

「え? それって……あれ? あたしたちどうやって帰るの?」
「それをどうしたものかという話を、今しているのだよ、マリー」

 小さな溜息。芝居がかった仕種で肩をすくめる。その目がそっと、彼方へ向く。

「クラヴィスエンジェモンであれば扉を開くことも可能ではある、が」
「あの鍵のデジモン? でも、素直に開いてくれる気はまったくしないけど」
「だろうな。そこで、問題はあなたというわけだ」
「え?」
「七大魔王もまた世界の柱。だと、するなら」
「私も、選ばれし子供だって言うの?」

 魔王とは闇を七つに別つ封印の器。世界の守護者だと、ワイズモンは確かにそう語った。語ったが、しかし召喚というなら私とインプモンの出会いはまるで真逆。やって来たのはインプモンの方なのだから。

「極めて希有なケースだろう。セフィロトモンのデータベースにあった過去の選ばれし子供たちの記録には、少なくともなかった」

 でしょうねと、声には出さず相槌を打つ。そもそも魔王が人間の子供に頼ること自体、これまであるはずもなかったのだろう。だからこそ、誰も私という存在の介入を予見できなかったのではないのか。

「私に、どうしろって?」
「どうもこうも、もし蝿の王との出会いもまた契約だと仮定するなら、その勝利こそが課せられた“役目”であるはず。つまり……」

 真っ直ぐに私を見るその目に、少しの思考。

「インプモンがアポカリプス・チャイルドを倒せば、出口が開くかもってことね」
「そういうことになる」

 溜息を吐きながら頷いてみせる。仮定に仮定を重ねた希望的観測。だとは思った。だが、誰もそれを口にはしなかった。
 悪夢はまだ、終わりそうもなかった。
 
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