□第十六夜 琥珀のメモリアル
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16-2 明日の追風(3/5)

 
 地下室を出てしばらく。緩やかな勾配の回廊を進み、負傷者のためにと宛がわれた大部屋の奥で腰を下ろす。辺りには先の戦いで傷を負った騎士たちと、その治療に務める衛生兵の姿もあった。

「灯士郎、へーき?」
「ああ、少し疲れただけだ」

 簡素な木造のベッドに腰掛け、マリーに答えた灯士郎は顔色も悪くない。痩せ我慢というわけでもなさそうだけれど、まったく平気なはずもないだろう。横になるよう促して、そうして私は、傍らに立つ少年・アユムへ目を向ける。

「それで話って……ああ、レイヴモンたちはいいの?」

 大柄なデジモンたちのために造られた大型ベッドの並ぶ別室はこの大部屋のすぐ向かい。扉も窓もない、大小の石のアーチで区切られた向こう側には、目を凝らせば二人の姿も見えた。ただ、話をするには余りにも不便な距離なのだが。

「呼んできてもいいが、まあ、別に構わないさ。彼らに直接関わる話でもない」

 アユムは肩をすくめて首を振る。眉間をとんと叩き、さて、と私たちを順に見る。

「帰り方についての話を、しておこうと思ってね」
「帰り方……え? 知ってるの?」

 思わず詰め寄るように問えば、落ち着き給えとばかりに肩を叩かれる。私ははっと、少しだけ身を引いて、咳ばらいを一つ。

「どういうこと?」
「セフィロトモンとして得た知識さ。操られている間にだが」

 物言いはどこか他人事。しれと言い放ち、一拍だけを置いて続ける。

「何でも“役目を終えれば帰ることができる”のだそうだ」

 そう、語る口調は皮肉げで、自嘲するようでもあった。

「選ばれし子供の召喚は、この世界を護る柱たるものだけが行使できる世界との契約だ」
「契約?」
「そう、世界を護るために世界の理を少しだけ捩曲げろ、と。そうして外部より引き入れられた異物、イレギュラーを排するイレギュラー。それが選ばれし子供というわけだ」
「毒をもって毒を制す、みたいなこと?」
「そういうことだ」

 つまり、と言ったアユムの言葉を継ぐ。

「用が済めば毒は毒。さっさと出ていけってわけね」
「えー、何それ。酷くない?」
「例えよ、例え。それより、その役目って?」
「ああ、それが問題だ」

 何せ、と肩をすくめる。困ったものだとばかりに眉をひそめる。契約、役目――そうか、彼らをこの世界に呼び寄せたのは、

「ホーリードラモン……!?」
 
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