□第十四夜 翠星のアジュール
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14-2 翡翠の覚醒(4/6)

 
「インプモン!」
「構うな、行け!」

 乗り手の戸惑いなどお構いなしに、否、だからこそベヒーモスは走り出す。

「くはは! 胃袋の中をどこへ逃げようというのだね!?」

 ベリアルヴァンデモンが指を打ち、それを合図に魔獣・ヴェノムヴァンデモンがその巨大な腕を振り下ろす。丸太のような腕が氷原を砕き――その爪の隙間をベヒーモスがかい潜る。
 魔獣の動きは極めて鈍重。ベヒーモスなら回避は容易だろう。だが、いつまでも続きはしない。こうしている間にもベリアルヴァンデモンは新たな魔獣を生み出し続け、今やその数は既に二桁に届こうかというところ。

 七割のリソースを割いたと言っていたな。つまりは十数分を要するというセフィロトモンのスキャンを今は三割ほどの速度で行っていることになる。単純計算で猶予は三十分強。その間に魔獣を相手取りながら自分を倒してみせろと、それがベリアルヴァンデモンの言う“ゲーム”というわけだ……!

 唇を噛む。ベヒーモスにしがみつきながら横目に悪夢の魔王を見る。悪夢を覗けば悪夢もまた私を覗き、その口が欠けた月に似た曲線を描いて嫌らしく笑む。
 これはゲーム。悪夢の魔王を愉しませる、ただそのためだけの。用意されてもいないゴールを目指し、盤上で躍る駒を見下してせせら笑う、悪趣味なデスゲームだ。少なくとも、ゲームマスターを気取るベリアルヴァンデモンにとっては。だが、

「肩慣らしにはちょうどいい的だ……!」

 ぎり、と牙を噛み、背と左足のホルスターから二丁の銃を引き抜く。翡翠の眼光を光学照準のように研ぎ澄まし、ベルゼブモンは雄々しく吠える。構えた銃が猛々しく火を吹いた。
 拳銃、と呼ぶには余りに重厚。大砲を圧縮したかのような二丁の銃が破壊の火を纏う魔弾を連射する。狙いは魔獣の主たるベリアルヴァンデモン。

「おやおや、急いては事を仕損じるぞ?」

 けれど、翡翠の目が捉えたのは嘲笑う口元。瞬間、視界と射線は途端に魔獣に遮られ、魔弾はその巨体に僅かばかりの傷を残すだけ。

「くくく。どうにも動きが鈍いなあ。それが紛い物の限界かな?」

 魔獣の影で姿も見せずに笑うベリアルヴァンデモンに、ベルゼブモンは小さく舌打ちを一つ。魔獣の反撃を後方へ跳躍して回避する。宙で反転し、その目を一瞬横合いへ向ける。と、

「気になるかね?」

 そんな声は、魔獣から聞こえた。
 
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