□第十四夜 翠星のアジュール
6ページ/19ページ

14-2 翡翠の覚醒(3/6)

 
「コアのフルスキャンにおおよそ十数分……いやいや、少し短いかな?」

 眼前のベルゼブモンを半ば無視するように、寒空を仰ぎながらベリアルヴァンデモンはううんと唸る。そうして、僅か一拍を置き、

「おお、そうだ! 少々ハンディキャップをくれてやろうか!」

 嗚呼なんと素晴らしい閃きだとでも言わんばかりに、にたりと唇を笑みの形に歪めてみせる。そんな、白々しい態度にベルゼブモンの目は冷めて、呆れたように溜息を一つ。
 けれど、当のベリアルヴァンデモンは構いもせずに、再び視線を空へ。その様はまるで神への祈り。だが、その実それは――

「さあ……こんな趣向は如何かなあ!?」

 そうそれは、地の底より来たる悪魔の呪い。
 氷の大地が激しく震え、かと思えばあちらこちらで光が立つ。赤黒く、濁った血に似たその光は、氷原に幾何学模様を描いてマグマの如く沸く。

「くっははははは! そら、リソースを七割近くも割いてやったぞ! お陰で君の余命も幾らか延びたなあ!? どうだね、喜び給え!」」

 幾何学模様が回る歯車のように忙しなく形を変え、赤黒い光が高く高く天へと昇る。四方八方に乱立する光のオベリスク。それはさながら無数の墓標。
 ぞくりと、屍の冷たい手が背筋を這う錯覚。鼓膜を叩くのは死霊の怨嗟に似たノイズ。
 墓標が震え、そして――眠れる骸が目を覚ます。

「おおっと、これはいかん」

 わざとらしく肩をすくめて、ベリアルヴァンデモンは首を振る。ああ私としたことが、なんて、自嘲する猿芝居がまた癇に障る。赤黒い光の中より黄泉返る骸の群れを眺め、眉を八の字に歪めて薄く笑う。

「これでは余計に時間が足りなくなってしまうなあ? くはは! まあ頑張ってくれ給えよ!?」
「こいつぁ……成る程、ちっと厄介だな」

 辺りを見渡し、後ろ頭を掻く。そんなベルゼブモンの様子を見るまでもなく、現状が最悪であることは容易に理解できた。

「名をヴェノム――すなわち“憎悪”」

 見上げるほどの巨体が大地を揺らす。血の色の皮膚、金のたてがみ、禍々しい翼が冷気を散らす。悪夢の魔王に似たその顔立ち、けれど理性なき野獣が如きその出で立ち。ベリアルヴァンデモンは愛し子を見るかのような眼差しで、目覚める死の王たちを、自らと同じ名を冠してこう呼んだ。

「さあ蹂躙せよ、憎悪の権化……“ヴェノムヴァンデモン”!」
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ