□第十四夜 翠星のアジュール
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14-2 翡翠の覚醒(2/6)

 
「偽り……?」

 言葉を繰り返せば、悪夢の魔王のその冷たく濁った双眸が、舐めるように私を見据える。

「あの戦いで君は、三つを得た」

 三本の指を立て、目を細める。その様はまるで込み上げる笑いを堪えているようにも見えて、ただただ不快感を駆り立てる。

「すなわち“ベルゼブモンの肉体のデータ”、“セラフィモン再構築のプロセス”、そしてその“デジヴァイス”だ」

 三本の指を順に折り、手品の種を得意げに暴くように薄く笑う。対するベルゼブモンは黙して語らず、ただ静かに視線を磨ぐばかり。

「選ばれし子供たちのデジヴァイスをトレースしたようだが……くくく、さすがに少し驚いたぞ。既に我が支配下にあるセフィロトモンのコアシステムに侵入するなど、なあ?」
「それって……」

 つまりは――嗚呼、先の言葉の通り。セラフィモンと同じ、とは例えではないそのままの意味だと、そう言っているのか。ここにいるベルゼブモンは、セフィロトモンによって造り出された仮初の存在に過ぎないと。
 ベリアルヴァンデモンは両腕を広げ、さも楽しげに声を上げて笑う。その様に、けれど当のベルゼブモンは気怠そうに深く息を吐く。

「で……そのつまんねえ話はまだまだ続きそうか?」
「くっ、ははははは! そう言わず最後まで聞き給えよ。君の命に関わるお話だ」
「へえ? それを握ってんのがお前だとか、そんな話か?」
「くく、これはこれは。随分と物分かりがいいじゃないか」

 にたりと、醜悪に笑みを歪める。

「所詮はこの箱庭の中でしか踊れぬ人形。君のテイマーが無断借用したシステム領域を割り出し、取り戻せばそれで仕舞いだ。枝葉の一つを奪おうが、幹はいまだ私のもの。腐った果実など切り落とせばいいだけのことだろう?」
「はっ、ぺらぺらとよく喋るこった。今すぐにはできねえって、口滑らしてんのは気付いてっか?」

 肩をすくめて不敵に笑う。そんなベルゼブモンにベリアルヴァンデモンの顔がより一層の狂喜に歪む。

「くははははは! ではゲームといこうか! 私が君を消し去るのが早いか、君が私を倒すのが早いか。さあ! 導火線には疾うに火が点いているぞ!?」

 けたけたと笑う。そら急げ急げと、面白おかしく煽り立てる。高みから盤上の駒でも見下ろすように、勝負にもなりはしないと確信するように。
 ぎ、と蝿の王はただ静かに、牙を鳴らす。
 
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