□第十三夜 翡玉のヘスペラス
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13-2 義戦の英雄(2/4)

 
 閃く雷光は轟く雷鳴を連れて。凍える空を引き裂き、光の速度をもって飛来する。瞬き、着弾、そして爆発に至り、ようやくそれを認識し、私たちは息を呑む。
 異形の怪物にインプモンとラーナモンが攻撃を仕掛けようとした、その間際。突如として戦場に割って入った雷が異形の頭部を直撃し、二人の足を止める。

「今の……!?」

 踏み止まり、思わず目前の敵から目を逸らすラーナモン。その頭上を一つの影が翔け抜けて、額から黒煙を上げながら痛打に呻く異形へ迫る。
 黒翼が風を打ち、螺旋の軌道を描いて白翼が異形の体表を撫でる。一瞬の後、白翼の軌跡をなぞる一閃のかまいたちが走る。あまりに鋭くあまりに速い、音すら置き去りにするそれが斬撃であったことに、今になって気付いたように。

 ざり、と私の真横へ降り立ち、黒白の翼の主は異形を睨み据える。そうして私を一瞥し、

「お怪我はございませぬか、ヒナタ様」

 そう言って私を心配するようにまたちらりと視線を寄越す。返す言葉が、見付からなかった。口を開いたまましばし、ようやくできたのはただ、その名を呼ぶことだけ。

「レイヴモン……!」

 無事でよかったという、安堵。そして同時にあれだけの爆発からどうやってという、疑問。溢れる感情を言葉にできないでいる私に、レイヴモンは小さく頷いてみせる。優しく、微笑んで。

「ご無事で何より」

 なんて、私より余程危機的な状況にあったというに、そんな物言いは相も変わらず。レイヴモンは異形の怪物へと向き直り、その爪を構える。
 異形は全身に隈なく刻まれた創傷の苦痛に身をよじらせながら、怒りに充ちた雄叫びを上げる。インプモンやラーナモンなどもはや眼中にもないかのように。
 だが、異形は気付いていなかった。雷を放つレイヴモンの技、その媒介となる刀は、堕天使へと姿を変えた外ならぬメルキューレモンによって砕かれたのだということに。先の雷の射手が、眼前のレイヴモンではないのだということに。

 閃光。再び雷が虚空を駆る。横合いからの第二撃をまたも無防備に受け、異形の巨体が揺れる。その、直後。駄目押しとばかりに黒い炎が追撃する。夜の闇にも似た黒炎は氷原を疾走し、やがてその形を変える。
 それは獣。黒の炎が形作る巨大なる獅子。異形に勝るとも劣らぬ巨体をもって猛進し、灼熱の牙を突き立てる。寒空が震えて、熱風が吹き荒んだ。
 
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