□第十三夜 翡玉のヘスペラス
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13-2 義戦の英雄(4/4)

 
 黒刃が閃く。一拍を置いて水の矢が翔け、鉄爪が追撃する。よろめき、苦痛に声を上げる異形の怪物の、その大きく開かれた口に目掛けて炎が放たれる。口内で爆ぜる火炎の轟音に呻き声さえ掻き消され、異形が身悶えする。
 一瞬の目配せ。口から煙を吹く異形にも構わず、四人は再び各々の武器を構えて氷原を駆ける。代わる代わる、休みなく紡ぐ四重奏。雑音はいらぬとばかりに反撃も許さない、その力強い旋律が異形の不協和音を塗り潰していく。

「決めるぞラーナモン!」
「オッケー!」

 ぱちんと指を打ち、立ち上る水流を足場に空へと駆け上がる。ラーナモンは眼下を走るレーベモンを一瞥し、その身に光の帯を纏う。レーベモンもまた駆ける速度そのままに光を帯びる。
 そんな二人を脅威と見做したか、異形はあぎとを開いて迎撃の構えを取り――けれど。

「こっちだデカブツ!」

 俺を忘れるなと、インプモンの放つ火炎が異形を直撃する。インプモンはちらりと空へ目をやり、

「レイヴモン!」
「御意に」

 インプモンの言葉とほぼ同時、応えるレイヴモンの白翼が異形を切り裂く。体格差ゆえに斬撃は致命傷とはなり得ない、が、無傷で済むほど甘くもない。異形が悲鳴を上げる、間もなく、間髪を容れずその創傷を狙い撃つ炎。内側から身を焼く痛みに、異形は叫ぶことすらままならない。

「これで」
「終わりよ!」

 インプモンとレイヴモンが稼いだ十分過ぎる時間。悠々と並列進化を果たし、黒鉄の獅子・カイザーレオモンと、半人半獣の魔女・カルマーラモンが異形へ迫る。
 カイザーレオモンは身を包む炎を肥大化させ、再び黒炎の巨大なる獅子となって猛進する。その牙が先の傷痕へと食い込み、質量を持った炎が異形の巨体を焼き切っていく。牙の隙間から覗く異形の頭部が絶叫する。瞬間、上空より降下するカルマーラモンは全身を激しく回転させ、螺旋の矢となり飛翔する。鉄をも穿つその穂先は異形の頭部を正確に狙い定め――刹那に鈍い音を残して、螺旋の矢が頭を貫き、炎の牙が体を食い千切る。

 そうして、ここに戦いは終決する。
 カルマーラモンの言葉通り、今度こそ、本当に、

「これで、終わり……?」

 私の口から不意に漏れる。まだ実感がない。だけだろうか。
 鬨の声が響く。なのに、どうしてだろう。この胸から、暗い何かがいまだ晴れないのは。冷たい汗が、頬を伝った。
 
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