□第十二夜 碧落のプラネット
9ページ/16ページ

12-2 逆賊の物語(4/4)

 
 強欲と憤怒。二柱の魔王の軍には、同じタブーがあった。奴に、リリスモンにだけは手を出すな、と。
 リリスモンに関する噂話は妙なものばかりだ。城の近くを通り掛かったらなぜか突然晩餐に招待されただとか、雑事を押し付けられたが褒美にと財宝を貰っただとか。魔王でありながら、血生臭い話は一つもない。
 だが、その理由は少し考えれば分かること。魔王は悪だと討伐に向かったどこぞの正義感溢れる勇者様も、ただただ力試しに挑んだ少しばかり腕に覚えのある猛者も、血生臭いことをしに行った連中は例外なく、誰も生きて帰って来なかったという、それだけの話だ。

 そんなリリスモンだからこそ思慮深き二柱の魔王は手を出さず、だからこそ騎士団も王に相応しいと、そう考えた。だと言うに、当の本人は自分よりもと他者を推した。

 孤高の、と。そう呼ばれる魔王がいた。
 ゼブルナイツの誘いを笑い飛ばしたリリスモンが、代わりに名を挙げたのは暴食の魔王・ベルゼブモン。それは戦いに狂った凶弾の撃ち手。死を貪るが如きその様を指してか誰かがこう呼んだ。蝿の王、と。
 名は知っていた。七柱の魔王の中で最も若く、それゆえに未知数。配下を持たず、目的も持たず、戦うために戦う狂戦士。なんて、風の噂に聞いたそんな話に不安がなかったと言えば嘘になるが、このならずものどもを束ねるには確かに相応しいとも思った。

 だが、その矢先だ。
 居城すら持たぬ流浪の魔王。その行方を捜していたのは、自分たちだけではなかった。そう、アポカリプス・チャイルドだ。一足違い。ほんの半日だった。我々がようやく所在をつかんだその直後に、戦いは始まってしまった。
 辿り着いた頃には後の祭り。残っていたのは、荒野に刻まれた戦いの痕跡だけ。勝敗は分からない。けれど探した。探して、探して、そして見付けたのだ。

 無様に敗れた、氷漬けの魔王を。

 怒り。悲しみ。失望。無力感。どれも少しずつ正しく、僅かずつ違う。そんな感情だった。
 奇襲を掛けた。こんな形で奴らと開戦しようとは思ってもみなかったが、それは奴らも同じだろう。驚くほど呆気なく奇襲は成功し、我々は魔王の肉体を手に入れる。そしてこれが、ゼブルナイツからアポカリプス・チャイルドへの、宣戦布告となる。

 こうして戦いは始まったのだ。王なき騎士団の、弱き王など必要とせぬ、誇り高き騎士たちの、戦いが――
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ