□第十一夜 紅蓮のコキュートス
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11-2 青銅の反逆(4/4)
「たった一つの玉座」
ぽつりと呟くように、獣騎士はインプモンに一瞥だけを寄越して語る。
「それが、我らゼブルナイツがこれまで築き守り抜いてきたもの」
目前の堕天使を見据えたまま、けれどその目はどこか遠くを見遣るよう。一拍を置いて、獣騎士は強く強く、己が志を言葉にする。
「我らを導き得る、ただ一人の“王”を迎え入れるがために……!」
と、射抜くような眼差しが見据えるのは既に遠い理想郷などではない。そこへ至る道に立ち塞がる敵を、堕天使を真っ直ぐに捉えて、その瞳に青い炎を燃やす。そんな獣騎士の姿に、レイヴモンが小さく身を震わせる。
「“王”……?」
「それこそが外ならぬ、魔王・ベルゼブモンという訳かい?」
とは堕天使。その口ぶりは問い掛けというより答え合わせ。あるいは、初めからすべてを見透かしていたかのように。疑いようもないとばかり。けれどそんな堕天使に、対する獣騎士は答えを寄越さない。その沈黙にはありありと、迷いが見て取れた。
堕天使は嘲るようにくすりと笑い、わざとらしく肩をすくめてみせる。
「そしてそれが、分裂の理由でもあった訳だ。ふふ」
なんて、私やインプモンにはまるで意味の分からぬそんな言葉に、しかし獣騎士とレイヴモンは歯列を軋ませる。
「ど、どういうこと?」
眉をひそめてレイヴモンに問えば、代わりに答えたのは堕天使だった。やれやれと首を振り、真っ直ぐにインプモンを指差す。
「どうもこうも、ふふ。魔王の無様な敗北がゼブルナイツを分裂させたのだと、彼らはそう言いたいのだよ」
と、堕天使がさも愉快だとばかりに言い放った、その直接だった。弾かれるように、レイヴモンが地を蹴ったのは。
「レイヴモン!?」
制止する間などあるはずもなく、その爪が堕天使へ迫る。だが、当の堕天使は慌てる様子もまるでなく、
「つまりは彼のような――」
先の攻防を再現するようにレイヴモンの腕を造作もなくつかみ、堕天使は見下すように笑う。
「未だ蝿の王に心酔する愚か者と、ダークドラモンたちのようにその資質を疑問視する少しは利口な者とに、ね」
それがゼブルナイツの真実なのだと、語る堕天使にレイヴモンは反論もできず、苦痛と悔しさに小さく呻くばかり。私もまた口にすべき言葉が見付からなかった。そんな時――私の隣でインプモンが、静かに息を吐く。