□第十一夜 紅蓮のコキュートス
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11-2 青銅の反逆(3/4)

 
 一閃。闇に三日月が如き光の軌跡が浮かび上がる。閃光は音もなく瞬いて、咄嗟に身を退いた堕天使の鎧を掠め、その残像を切り裂く。そうして続いたのは、鈍い音。そして羽ばたき、次いで石畳を叩く乾いた音。
 予期せぬ横槍に体勢を崩した堕天使のその隙を衝き、レイヴモンは蹴撃を浴びせ束縛を脱したのだ。翼をもって宙で後方へ跳躍し、堕天使から距離を取って着地。直ぐさま敵の姿を目で追い――驚愕する。

「これはこれは、また珍しい来客だ」

 その姿を目に、堕天使はほうと息を吐く。この地下深き戦場に不意に割って入った闖入者。青き鎧を燭台の灯に鈍く輝かせ、三日月に似た刃を携える。紅蓮のマントをなびかせ、出で立ちは騎士なれど頂に抱くは獣の顔。

「ミラージュ……ガオガモン!?」

 獣頭の騎士のその名を、友の名を呼び、レイヴモンは我が目を疑うように双眸を見開く。掛けるべき言葉も見付からず、口を開いては閉じ、そんな折。代弁するように「何故?」と問うたのは堕天使だった。ちらりとレイヴモンを一瞥し、おどけるように肩をすくめる。

「とでも言いたげだぞ。君のお友達は。まあ、問いたいのは私も同様だがね」
「やはり、我らの繋がりに感づいていたか」
「ふふ、今更そんなことはどうでもいいさ。今の私の興味は、君がどうやって私の目を逃れてみせたのか、その手品の種明かしだけだよ」

 私の体内にいながら、と続ける堕天使の顔から、不意に笑みが消える。獣騎士は刃を構えたままに、

「そう大層な種でもない。ただ――」

 獣騎士の全身から、青い光がうっすらと沸き立つ。

「デジソウルの波長を周囲のコードと同調させただけの、疑似姿隠し。古い友の真似事だ。お前の目を逃れられるかは、賭けだったがな」
「そして見事賭けに勝った訳だ。ミラージュの名は、伊達ではないということか。あのエイリアスを匿ったのも、同じ手品かい?」

 くいと、堕天使が視線で指してみせたのは、外ならぬインプモンだった。当然の如く困惑する私たちを他所に、獣騎士は小さく首を振る。

「そのはずだったが、差し出がましい真似をしてしまったようだ。やはり我が友の目に狂いはなかった」

 そんな言葉に私たちはただただ眉をひそめるばかり。何がどうなってやがると、差し置かれた当事者であるインプモンが半ば怒鳴るように問う。
 ややを置いて獣騎士は、静かに言葉を返す。
 
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