□第十一夜 紅蓮のコキュートス
18ページ/21ページ

11-4 紅蓮の氷原(4/5)

 
 黒獅子が雄叫びを上げる。騎士の胸でそのあぎとを開き、冷気を揺るがす咆哮を黒き閃光に変えて闇を衝く。放たれた光は球形を成し、砲弾となって虚空を翔ける。
 ミラージュガオガモンとただ一度だけ視線を交わし、真っ先に動いたのはレーベモンだった。先制の一撃。けれど、その獅子の砲口が狙い定めるのは目前の堕天使ではない。堕天使が軌跡を横目で追う中、光弾はその真横を通り過ぎてゆく。狙うはその先。上空に佇む、白ずくめの天使。

「どこを見ている!」

 不気味なほど無防備に、無警戒に、視線を逸らした堕天使へ怒号とともにミラージュガオガモンが迫る。お前の相手はこの私だと、その爪を振りかざす。研ぎ澄まされた刃が風を切り、そうして――鉄仮面が砕ける。
 頭上から振り下ろされる爪の一撃に、その衝撃に堕天使の首はあらぬ方へと曲がる。更にレイヴモンの追撃が鎧を翼ごと裂く。

 同時、レーベモンの砲撃を迎え撃つべく白ずくめの天使・サタナエルがその右腕から閃光を放ち、黒と白の光が互いを食い潰すように弾けて爆ぜる。
 砲撃は互角。だが、黒の砲手は二人で一人。瞬間、影なる黒騎士が闇を跳躍する。光弾は、目眩ましに過ぎない。
 地下室から開けた空の上まで、翼があれど数秒は要するであろう間合いを一足に駆け、ダスクモンの剣がサタナエルを背後より襲う。
 ち、と。漏れた舌打ちはどちらのものだったろうか。背後からの奇襲を寸前で察知し、サタナエルが身を翻したことでダスクモンの剣はその白いフードを薙ぐに留まる。
 空振りと咄嗟の回避。互いに体勢を崩し、互いに手が止まる。戦いの間隙。しかし翼を持たないダスクモンは自らの形勢を不利と見て、追撃より一時後退と再び闇を跳躍すべく剣を収め――瞬間、その視線と意識を膠着させる。
 生じたのは余りにも大きな隙。体勢を立て直したサタナエルの拳打が光を帯びてダスクモンに直撃する。

「ぐっ……!」

 思わず呻き、けれど即座に闇を跳ぶ。地下室の石畳によろめきながらも着地し、拳打を受けた腹部を押さえる。
 その様に、砕けた鉄仮面の奥から堕天使が笑う。
 ダスクモンは空を仰いで、その目を見開く。視線の先で切り裂かれたサタナエルのフードがはらりと風に舞う。露になるその姿には驚愕と困惑が半々といったところ。不意を突いたとはいえ魔王を討ったそれがよもや――

「エンジェモン……だと!?」
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ