□第十夜 蒼天のコマンドメンツ
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10-3 蒼天の鉄槌(4/4)

 
 生じたのは、瞬きほどの隙。気流を背に受け加速したベルグモンの爪が、姿勢を崩したパロットモンの側頭部へと突き立てられる。頭をわしづかみにするような形で、みしりと、骨の軋む音が漏れた。ベルグモンはそのままパロットモンを踏み台に跳躍するように後肢を真下にふるう。
 苦悶の表情を浮かべ、パロットモンは体勢を立て直すことさえままならず湖へと落下する。小さくはない水音を上げ、高く水柱が立つ。ベルグモンはそれを見届けることもせず、再び大きく羽ばたき飛翔する。

 そして、道は開かれる。
 サンダーバーモン・クアトルモンの混成部隊による戦線を突破し、更に部隊長であるパロットモンを下したことで、一時的とはいえ行く手を阻む障害が消える。別部隊を割くにも思考と準備には僅かの時間を要する。機は、今この時だ。
 ベルグモンはそのまま両軍の空戦部隊が交戦するその真上を翔け抜ける。エルドラディモンの頭上へと到達し、そうして――何をするでもなく急旋回し、即座にその場を離脱する。その行動の意図を理解できたものはいなかったろう。ベルグモンの急旋回と同時、傾いた背からエルドラディモン目掛け降下した、私たちを除いては。

「うまくいったか」
「みたいね」

 エルドラディモンの背の上に建つ、塔のような建造物のテラスに降り立ち、一先ず安堵の溜息を吐く。いや、本番はここから。まだ気を抜くことはできない、か。
 私は空を見上げてこくりと喉を鳴らす。空はその天頂より徐々にセフィロトモンの体色と同じ色に染まり、この小世界が飲み込まれてしまうのももはや時間の問題だった。

「もう引き返せそうもないね」
「端から引き返す気もねえよ」
「とにかく急ぎましょう。封印されてた部屋、確かずっと下のほうだったけど……レイヴモン、道分かる?」

 見たところ無人の塔の中、暗がりの奥の螺旋階段を覗き込んでそう問い掛ける。けれど、

「レイヴモン?」

 返って来ない返事に振り返る。テラスに佇むレイヴモンは空を仰いだまま、はっと息を飲む。
 一瞬、戦場が静まり返ったような錯覚。高い高い空に見えたのは真紅のマント。その中心より突き出た円錐状の何か。ずるりと、引き抜かれるそれは槍の穂先だった。

「ミラージュ……ガオガモン」

 ダークドラモンの槍に貫かれ、力無く落ち行く友の名を譫言のように呼ぶ。応える声は、あるはずもなかった。
 
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