□第十夜 蒼天のコマンドメンツ
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10-3 蒼天の鉄槌(3/4)‏

 
 散る火花、駆け巡る閃光に、舞う鮮血。甲高い音が耳を衝く。戦場はもう、目と鼻の先。

「行くぞ」

 低く小さく、背の上で姿を隠して潜む私たちの存在を気取られぬようにか、囁くようにベルグモンが言う。その一言に心臓が高鳴り、冷たい汗が頬を撫でる。
 ベルグモンは一際大きく羽ばたいて、その翼で鋭く風を切る。既に互いに目視可能な距離。目前の敵と頭上のセフィロトモンに気を取られていた両軍の兵たちも、ベルグモンを意識と視界に捉える。

 咆哮。漆黒の怪鳥の闇より轟くような雄叫びが、戦場の空を揺らす。と同時、ベルグモンの額の邪眼より放たれたのは軌跡が瞳のような紋様を描く血の色の閃光だった。
 赤黒い光の筋が、突然の闖入者に戸惑うアポカリプス・チャイルドの兵を次々に撃ち抜く。披弾した兵たちは僅かな呻きを上げると、その身に小さな茜色の火を点し、糸が切れた人形のように静かに湖へと落ちてゆく。
 その様に、戸惑いが一瞬に敵意へ変わる。

 聖獣部隊を率いる深緑の巨鳥・パロットモンが吠え、それを合図に青の雷鳥・サンダーバーモンと翼の白蛇・クアトルモンの混成部隊がベルグモンを迎撃すべく旋回する。雷鳥がその帯電した羽を矢のように撃ち出し、白蛇がその身より螺旋状の光の帯を放つ。
 兵数が百を優に越える混成部隊。第一射だけでまさに嵐のような弾幕。けれど、

「邪魔だ」

 吐き捨てるように呟いて、ベルグモンはその翼で大きく空を打ち、耳をつんざつ雄叫びを上げる。咆哮に揺らぐ大気が羽の矢を撃ち落とし、ふるう翼が巻き付く光の帯を引き千切る。それは火の粉を払うように、ただただ無造作に。まさにものともせず、前衛の部隊を第二射に備えていた後衛もろとも蹴散らして、ベルグモンは悠然と飛翔する。

 格が違い過ぎる……!
 これが十闘士の力か。いや、思えば今まさに小世界を飲み込まんとする頭上の怪物と同格なのだ。凡百のデジモンであろうはずがない。

 雷鳥と白蛇による混成部隊の戦線を突破し、ベルグモンはエルドラディモンへと迫る。だが、即座にその行く手を遮り立ち塞がったのは部隊長たるパロットモンだった。
 一瞬の睨み合い。パロットモンの額が青白く発光し、狙いを定めるように前傾する。けれど、その間際。ベルグモンの力強い羽ばたきが大気を混ぜ返し、乱気流を巻き起こす。
 そうして――激突と決着もまた、一瞬に終わる。
 
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