□第七夜 灰燼のフロンティア
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7-2 灰色の盟友(2/2)
ごおん、ごおんと。響く地鳴りは四方に反響し、闇の中で渦を巻く。踊る重低音、追走する鳴動が幾重にも絡み合い、獣の咆哮にも似た旋律を織り成していた。
「……来たか」
揺れる石壁にそっと手を置いて、ダークドラモンは誰にともなく小さく零す。槍を携えた右腕に力が篭る。
「どうやら、“生命の木”が動いたようじゃのう」
ぱらぱらと落ちる粉塵に、揺れる視界。ぽつりと呟くようなリリスモンの言葉に竜は視線だけを寄越す。
「噂に聞く奴らの居城か……いよいよ本気だな」
「その要塞も見付かってしもうたようじゃのう」
「見付けさせてやったんだ。機は熟した。もはや待つ理由もなくなった」
言うが早いか踵を返し、重く静かに歩を進め、冷たい鉄の扉に手をかける。そうして、後一歩。不意に竜は足を止め、視線もやらず、いまだ背後の氷鏡に佇むリリスモンへ意識だけを向けて、
「リリスモン、貴様は……」
言葉には一瞬の躊躇い。けれどそれも刹那に呑み込んで。
「魔王となる以前の貴様は……本来ルーチェモンの配下に名を連ねる高位の天使であったと聞く」
そんな言葉に当のリリスモンはただ微笑。今や神話の如く語られる太古の史実。古き天より堕ちた裏切りの天使は、黒く染まった自らの翼をどこか愛しげに撫で、両の目を閉じる様は懐古するようで。
僅かの沈黙を置き、竜はその右腕に力を込めて、意識だけが射殺すようにリリスモンの幻影を刺す。その裏切りの、堕天の真実を知るはただ当人だけ。だからこそ、
「蝿の王を手に入れた今、貴様の安否などもはや憂いの外。貴様の目的は知らんが……」
扉にかけた腕を無造作に奮う。巨大な鉄塊はまるで積木の山を崩すように砕け散って。
「邪魔立てするなら容赦はせんぞ」
「おお怖い怖い。ほほほ、肝に命じておこう」
そんな嘲りにも似た返答は半ば想定内。竜は舌打ちを一つ。自ら砕いた扉の破片を踏みしだき、石壁に重い足音を響かせ暗がりを進む。
「安心せい」
遠ざかる竜の後ろ姿に掛かるリリスモンのそんな声は、不自然なほど明晰で。
「敗れた折は下男として頤で使うてやるゆえ。敗残兵共々、のう。気楽に臨むがよい」
と、この場には不釣り合いな笑みを浮かべてさも楽しげに。竜はただ二言だけを吐き捨てて、地上を、戦場を目指して飛翔した。
「お心遣い痛み入る。……反吐が出るほどな」