□第三夜 黒鉄のナイト・メア
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3-3 朝駆の疾走(3/4)

 
 荒野にぽつりと現れたそれは、簡素な石造りの建物が点在する、まるで岩山をくり抜いたような町だった。

 町の入口とおぼしき石のアーチを前に、ベヒーモスは緩やかに足を止める。
 私はベヒーモスから降りてそろりとアーチの内を覗き込む。そんな私の背後でインプモンがおおと声を上げる。

「どこかと思えば……なんつったっけな、ここ」
「来たことあるの?」
「昔な。ベヒーモスが暴れまくってた町だ」
「え……?」

 アーチに手をかけていた格好のまま、思わず固まる。

「心配すんなよ。俺がベヒーモスを手懐けるまでの話だ」

 どの辺りが心配無用なのか分からないが。
 嗚呼、なんてこった。折角安息の地を見付けたと思ったのに。襲ってこないだろうな、ここの住人たち。

 私の不安を余所にインプモンはアーチを抜けて声を張る。

「おーい、隠れてねーで出てこい! こんなナリしてっけど俺だ、ベルゼブモンだ!」

 そんな声が静かな石造りの町に反響し、しばし。やがて躊躇いがちにひょこひょこと、町の住人らしきデジモンたちが建物から顔を覗かせる。

「ベ、ベルゼブモン様……?」

 アーチに一番近い建物から恐る恐る姿を現したのは、大小様々な石を人の形に積み上げたようなデジモンだった。

「ようゴツモン。俺だよ俺。ベルゼブモンだ」
「ベルゼ……えー?」
「えーじゃねえよ。ホントだって。俺以外の誰がこいつを乗りこなせんだよ」

 ベヒーモスをぽんぽんと叩きながら言うインプモン。まあ、気持ちは分からなくもない。
 ゴツモンと呼ばれたデジモンはなんだか納得したようなしてないような顔でぺこりと頭を下げる。

「お、お久しぶりでございます。それで、その、ほ、本日はどういったご用向きで……?」

 怖ず怖ずといった風に。他の住人たちも遠巻きにその様子を見守る。うーん。邪険とまではいかないようだが、歓迎されてもいないような。

 よくよく見れば町は所々が不自然に崩落している。ベヒーモスがやったのだろうか。だとするならこの反応も仕方のないことだが。

「いやー、用ってほどでも。あ、ヒナタはなんか要るもんあるか?」
「え?」

 突然の振り。皆の視線が自然と私に集まる。要るもの、って? この空気で言うのは躊躇われたが……嗚呼、まあいいや。

「ええと、それじゃ……」

 私の言葉に、なぜか皆は首を傾げた。
 
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