木の葉創設期夢

□涙きせき
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この両目は
兄さんのために…
うちはのために…
そして、愛する人のために…




僕の世界は色を、形を、すべてを無くした
今まで見えていたものが急になくなるとこんなにも不安なんだ。
周りには強がってはいるけど、やっぱり怖くて…


真っ暗な世界にはきっと一生慣れる事はないだろう…
否、慣れたいなんて思ってもいない。
だってまだ、いつかこの目が再び見えることを心のどこかで祈ってるから…

それに鮮やかな世界を僕は知っているから
いっそ最初から何も見えなかったらよかったのに。




「イズナさん」

「……名無し?」

「なんだか、寂しそう…」




そう言いながら僕の隣に腰掛けたのは名無し
僕が兄さんに目を渡そうと決心させた理由の1人




「表情なんて、もう僕にはないのに?」

「私がどれだけイズナさんと一緒に居ると思ってるの?」




クスクスと笑う名無し
でも僕はその笑顔を見ることはできない。




「辛かったら無理はしないで…」

「無理だなんて、そんな…。」

「私がイズナさんの両目になってあげる。」

「……ダメだ…名無しにはもっと…もっと頼れる人といてほしい」




本当は一緒に居たい
でも、そんなことしたら僕は一生名無しの重荷になるだろう。
大好きな人にそんな思いはさせたくない



「……またそうやって自分を犠牲にして…。」

「…犠牲、かもしれない。でも君を幸せにするにはこれしかないんだ」




僕が身を引けば名無しは苦労しなくて済む。
痛みを受けるのは僕1人で充分なんだ
だから。だから兄さんにだって目を差し出した。




「私は、イズナさんでないと幸せだって思わない。イズナさんじゃなきゃ嫌。」

「名無し?」

「辛かったり、悲しかったり、寂しかったり…そんな時いつも元気付けたり支えてくれたのはイズナさんだから!!」

「支えてなんか…」

「ただ隣にいてくれるだけでよかったの。私はあなたのことが大好きだから!!」

「僕だって大好きだ、でも……」

「痛みも苦労も喜びも幸せも、全部イズナさんと分け合って生きて生きたい」

「名無しっ!!」



僕は思わず名無しを抱き寄せた




「…ありがとう。こんな僕でも…いいと言ってくれて…」

「うん。」

「迷惑いっぱいかけると思うけど」

「うん。」

「それでも僕とずっと一緒に居てください。」

「はい。」




きっと僕は笑っていただろう

君に選んでもらえたこと…
僕を励ましてくれたこと…
なんにも無くなってしまった僕のことを必要だと言ってくれたこと…
今までの幸せを思い出したこと…
そして、これからの幸せが少しだけ…
ほんの少しだけの未来が
もう見えるはずの無い僕の目で見ることができて…

全部がこみ上げてきて涙がこぼれた。
こぼれるはずのない涙があふれてくる。

きっとこれは君がくれた魔法だと僕は思った。









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