創作物
□息詰まり
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序.
「しんでしまえば、よかったのかな」
そんな、答えのない問いと、少年。
□■□
夏も近づく八十八夜、は、とうの昔に過ぎ去っている。
あと一ヶ月もなく訪れるであろう梅雨に早くもげんなりしながら、早川全爾は窓の外に青青と晴れ渡る空を見上げた。
時間の流れは、早い。
つい数週間まで中学生だったような気さえするというのに、現実ではもう高校二年生。受験も視野に勉学に努めなければいけない学年だ。
息が詰まるような気分だった。喉が締まっていたわけではないけれど、少しでも楽になりはしないかとネクタイを緩める。
「大学、ねえ……」
これといった夢がある訳ではないというのに、それでも行かなければならないものなのだろうか。
お金の無駄と、思えなくもない。
誰もいなくなった教室に、全爾の溜め息はいやに響いた。
金曜の昼間だというのに生徒がいない訳は、今日が中間考査最終日だというところにあった。
テストが終わったその日にまで教室に居残ろうなどという数奇な者は、全爾以外にはいなかったのだ。
開け放たれた窓から、部活に励む同輩、もしくは後輩の健康的な声が運ばれてくる。
部活に所属していない全爾には縁のない、それでもこうやって触れることは多いそれは、この年代の特権である青春というものを感じさせた。
頬笑ましいとは思うとも、羨ましいとは思わないが。
少しばかり橙に色付いた光が、運動場へと降り注ぐ。
煩わしくない程度に湿気をはらんだ風が、全爾の髪で遊んだ。
「……ようやるわ」
それは、誰に宛てたものでもなく。
言うなれば、抑揚のない日常に対しての愚痴であったのかもしれなかった。